天空の御使い、入り婿ロシアム編

第100話 全部台無しにする帝国の爆誕

水上都市での騒動も一段落し、またもや次の目的を見失いかける勇者一同。

そもそも勇者の使命の魔王討伐も女神の信仰復活という私情全開で、

魔王が人界を攻めている事実もあるから仕方なく行っているだけで元からあまり乗り気ではない。

不死王や異海宗みたいな放っておけば周りに甚大な被害を齎すような相手なら別ではあるが、魔王軍といえどもそういった連中だけでない事を今は理解している。

其処に来て精霊姫との邂逅も有った為、勇者一行の中では「話し合いで解決できればそれで最適じゃない?」という空気すら生まれてきている。

まぁ、親の仇討ちをしたい魔族娘としては現在の魔王である精霊王を〆たいというのは本音ではあるが、今では別に魔王軍の打破自体は主目的ではなくなっている。


「ちょっとちょっとなんですか貴方達は! それでも人界の代表ですか!」


この状況に焦るのは女神である。

両腕を組んで完全にだらけ切っている勇者一行を叱責するも、反応は鈍い。


「前も言ったが、戦争自体にはあまり加担する気はないしな」

「そ―そー、おじさまの言う通り。

 何かでっかい事件でも起きない限りは勝手にやらせておけばいいよ」


ぼけっとお茶を飲む暗黒騎士にお菓子を摘まみながら漫画を読み耽る勇者。

仮にも人の救世主とも言える立場の人間の台詞と態度ではない。

ちなみに現在は一通りの水上都市観光を終えて、実家へと戻っている。


「ぐぬぬぬぬ! 使命感の無い人達め…!」

「お前も別に使命感ないじゃん…」


勇者に借りた漫画を試しに読んでいる魔族娘も足を引っ張ってばかりの女神にツッコミを入れる。


「た、大変ですわ皆さま!」


其処に扉を勢いよく開けて駆け込んでくる魔法使い。


「おろ? どうしたの妹ちゃん?」


漫画を読んでいた顔を上げて魔法使いをきょとんと見つめる勇者。


「そ、それが先程、聖女様から連絡がありまして…」


魔法使いは持っていた紙を広げる。


「ほ、北部に住む蛮族の集団が…その、事実なので聴いてくださいましね?」

「引っ張るね、期待値上がるよ?」

「『マジ★デス・ラブリィ帝国』を名乗り、独立を宣言したとの事ですの」


広げられた聖女直筆の手紙には確かに『マジ★デス・ラブリィ帝国』と記されている。

しばしの間、沈黙だけが空間を支配し、


「な…何をやっておるのだあやつはぁぁぁ!?」


暗黒騎士の絶叫が家中に響いた。


そして、急遽呼び出される旧四天王の魔女と竜王。


「あやつ…遂にやりおった…」

「まぁ、自己顕示欲が行き着いた末なのかしらねぇ…」

「俺、帰ってもいいか? 関わりたくねぇ」


完全にお通夜ムードで元同僚のやらかしをどうするか話し合う。


「取り敢えず、見つけ次第〆るか」

「〆るだけで足りる? ちょっと生きてる事後悔させといた方がよくない?」

「なぁ、俺帰っていい?」


もう完全にマジカル★デスウィッチを全力で〆る方向に固まっている旧魔王軍幹部達を冷めた目で眺めている勇者達。


「放っといていいんですの、勇者ちゃん?

 ウィッチさんには一応恩もありますけど?」

「いいんじゃない? おじさま達が責任取ってくれるみたいだし」


最早、完全に部外者気分で事の成り行きを見守っている。


そんな中で、


「こんにちは~、巡業終わったから遊びに来たよ~!

 いや~、想像以上に辺境だね此処!」


当の本人が明るい表情で玄関の戸を開けて入ってきたのだった。


「え、なにこれ? 何この空気?」


異様な空気を察して後退るマジカル★デスウィッチに対して、旧幹部の3人は眼光を光らせながらにじり寄るのだった。


勇者歴16年(春):北部でマジ★デス・ラブリィ帝国が独立を宣言する。

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