勇者と水の都の編集者編

第80話 魔王軍定例会議、不在の精霊姫

これは勇者達が不死王を討ち破り、聖都を奪還する少し前の話。


この日も定例の軍議を行う予定だったが、作戦進行中の不死王。

外せない予定があると事前に連絡があったハーピィの二人は不在。

それだけならば別に珍しい事でもないが、この日は精霊王の一人娘であり、

四天王でもある精霊姫も軍議に不参加であった。



精霊姫の代わりに出席した蛸神官は溜息をつく魔王にオドオドとした様子で精霊姫からの伝言を伝える、


「ひ、姫様から作戦の変更をお伝えしろと仰せつかりました…

 水上都市は当初の方針の破壊から恭順させる事に変更したと」

「なっ!?」


その言葉に驚いた魔王が立ち上がる。


「ひっ!?」


魔王の剣幕にあくまで代理で来ている蛸神官が悲鳴を上げる。


「それはあやつが本当に言っていたのか? お前の戯言ではあるまいな?」

「い、いえ、本当に御座います…疑われると思うので魔王様にはこの親書もお渡しするようにと」


おずおずと差し出された親書を受け取り、座り直してそれに目を通した魔王が蛸神官を睨む。


「ひぃ!?」

「これは確かにあやつの字だ…ここにも確かに水上都市を恭順させる方針に変えたと書いてある。しかし、理由が分からぬ」


魔王の一挙手一投足に怯えつつ、蛸神官が私見を述べる。


「せ、僭越ながら申し上げますが、最近の姫様は定期的に水上都市に潜入しておるようです。理由は我ら一同も分かりませぬ」

「水上都市に? …ムムム、あやつが訳も分からぬ行動を取るとも思えぬが」


納得はいかないまでも、この場に代理で来ている使者の言葉に嘘はないと魔王も認めざるを得ない。


「まぁ、良いんじゃねぇですか?

 要は人族共を奴隷にするという事だろ?」


四天王唯一の出席者であった火の火蜥蜴が助け舟を出す。


「フム、確かにあの拠点をそのまま使えれば我らの海洋拠点とするにも意義はある。

 よかろう、その方針変更は認める。

 ただし、あやつには次の軍議には必ず参加するように強く言い含めておけ!」

「ハ、ハハァ―!」


蛸神官は頭を下げると足早に部屋を出ていく。


「全く、我が子だからと大目に見ていたが、

 最近のあやつの行動は捨ておけぬものがあるな」

「親の贔屓目でもってやつですか?」


クックと火蜥蜴が笑う。


「フン、私は公私混同はしないつもりだ。貴様もあまりふざけた言動は取るな」

「おぉ怖い怖い。 まぁ、朗報もありますぜ」


火蜥蜴は数枚の資料を魔王に渡す。


「ほぅ、


資料に目を通した魔王の口元が怪しく歪む。


「あぁ、後はドワーフ連中に発掘作業を進ませてるとこだ」

「うむ、作業が完了次第改めて報告しろ、さて…次は」


魔王達が軍からの報告書に目を通していく、魔王軍いまだ健在なり。


勇者歴15年(秋):精霊姫、唐突に方針を変える。

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