第77話 対不死王~決戦~

大教会礼拝堂。

本来は煌びやかなステンドグラスと、職人の粋を凝らした女神像が見る者の心を洗う清浄なる空間。

しかし、女神像の首は粉砕されて跡形もなく、ステンドグラスから差し込む日の光も今は何処か禍々しい。

その祭壇には不死王が居座り、彼を守るように聖女が立ち塞がっていた。


「フン、この人数がここまでやってくるのは想定外だったがいいだろう。

 この場所にて貴様らを殺し、我が眷属としてくれる」


不死王が顔の前に手を向け、決めポーズを取る。


「先手必勝!」


隙だらけなので勇者は遠慮なく斬りかかった。


「ちょ、あぶなっ!

 こういうのは先ずは口上が終わるのを待つのが礼儀だろうが!」


しかし、勇者の振り下ろした魔剣は光の壁に阻まれて不死王にまでは届いていない。


「ありゃ、硬いなこれ」


不死王を庇って聖女が張った結界を破れないとみて勇者が飛び退く。


「…全く無粋な奴め! しかし、貴様らの攻撃は我には届かんぞ!」


自分の力ではないが頭に乗る不死王。


「暗黒剣!」


勇者は尚も追撃を試みる、ただし聖女に。

魔剣から放たれた黒い斬光が聖女の貼った結界とぶつかり軋みを上げる。

際どい所ではあるが、聖女の結界の方がまだ強く、斬光が先に消滅する。

しかし、衝撃に耐えていた聖女は若干息が上がり始めている。


「よし、やれる!」

「やれるじゃないですわ!? やっちゃ駄目ですって!」


更に暗黒剣を繰り出そうとする勇者を魔法使いが慌てて止める。


「そうだぞお前!? 何、人質ごとこっち消そうとしてるんだよ、

 人の心がないのか!?」


何故か敵である不死王にまで怒られる始末。


「尊い犠牲だったね…」


遠い目をして剣を構えようとする勇者。


「おい、押さえろ!! これ本気でやるぞ!?」

「ちょ、駄目だから! バレたら怒られるじゃすまないから!!」


暗黒騎士と魔族娘が後ろから羽交い絞めにして何とか鎮静化する。


「ハイ、正座。 聖女、倒しちゃダメ。 続けて」

「聖女、倒しちゃダメ」

「あくまで洗脳されてるだけだからな、

 解くのを試みてからどうしても駄目だったら諦めような?」

「ハイ!」


正座した状態で元気よく手を上げる勇者。

返事は綺麗。


「…大丈夫? 改めて動いてもいいか?」


聖女に『魅了チャーム』をかけ直しつつ、再開していいか尋ねてくる不死王。

勇者に何度も確認を取った暗黒騎士が指でOKサインを作る。


「フハハハハ! そういう事だ、

 貴様らは手も足も出す事が出来ずに我に蹂躙されるがよい!」


気を取り直した不死王は中空へと浮かび上がり、影の中から数十本の影の槍を作り上げて勇者一行へと放ってくる。


勇者は魔剣でそれを打ち払い、魔族娘は華麗に避け続ける。


「くっ…大盾バリア―!」


身体能力に劣る魔法使いは防御魔法で自身の前に結界を張る。

聖女には劣るものの、不死王の影の槍を耐える程度の強度はあるそれで何とか耐え凌いでいる。


「……」


不意に、聖女がふらふらと前に歩き出した。


「何だ、どうした聖女よ?」


想定していない聖女の行動に不死王も困惑の声を上げる。


「……素敵♡」


フラフラしていた聖女は魔法使いを見て、瞳にハートマークを浮かび上がらせながらそちらへ歩み寄ろうとしている。


「なっ!? 聖女、こっちを見ろ! 『魅了チャーム』『魅了チャーム』『魅了チャーム』!!」


慌てて聖女に『魅了チャーム』を重ね掛けする不死王。


「わ、私は何を…すみません、ご主人さま!」


フラフラしていた聖女も不死王の許へと走り戻る。


「なぁ、勇者ちゃんこれってさ?」

「うん、そうじゃないかなぁ?」


その一連の流れを見ていた勇者と魔族娘は魔法使いへと向き直る。


「な、なんですの!? 私が何か致しましたの!?」


意味が分からずに一人だけ困惑している魔法使い。


「取り敢えず、妹ちゃん、回復魔法でもなんでもいいからあの聖女さんに魔法を使い続けてくれない?」

「え? えぇ、別にそれはよろしいですけれど…?」


勇者の指示の意味が分からないまま、言いなりに聖女へと適当に初級回復魔法を唱える魔法使い。

そうすると、やっぱりフラフラと魔法使いの方へ行こうとする聖女。


「あー、決まりだねこれ」

「こんな形で役立つとはなぁエロティック黒魔法…」


改めて説明しよう!

魔法使いの使う魔法は淫魔直伝エロい仕草をしながら相手を魅了して放つ黒魔法!

詠唱中でもその妙に耳障りの良い吐息や、必要ない無駄にセクシーな動きで相手を悩殺する効果があるぞ! スケベだね!


「な、何だ!? 何故、我の『魅了チャーム』が解けかけている!?

 クソッ、聖女よ、こっちだ! こっちへ来い!」


負けじと不死王も聖女へと『魅了チャーム』をかけ直し、その度に聖女があっちへフラフラ、こっちへフラフラと彷徨っている。


「…大丈夫かアレ…最終的に真っ二つになったりしないか?」


その光景を眺めている暗黒騎士は若干不安になった。


そうして魔法使いと不死王が聖女の奪い合いをしている隙に、


「おんどりゃ死にくされボケェッ!! 乙女の恥さらしとんじゃないわぁ!!」


背後を取っていた魔族娘が渾身の貫き手で不死王の胸を貫いた。


「ガッ…し、しまっ…!!」


不死者の魔力源である心臓を潰されて急速に弱体化していく不死王。


「トドメだよ!!」


其処に勇者が全力の暗黒剣を放ち、斬光の中に呑まれていく。


「ガ…ガァァァァ!? あ、あんまりだぁぁぁ!!」


斬光に呑まれ、不死王は流石にちょっと不憫になる断末魔を残して消滅する。


「しょうりー!」


魔剣を高々と掲げ、勝利を喜ぶ勇者。


「ボケ!死ね!二度と復活すんな!」


なおも不死王の消滅跡を踏み荒らしている魔族娘。


「ちょ、この方をどうにかしてくださいまし!?」


不死王の『魅了チャーム』が解けた所為で自分の足に縋りつく聖女をどうしていいか分からずに魔法使いは悲鳴を上げている。


「うん、グッダグダ」


その強敵に打ち勝ったとは思えない光景を遠い目で暗黒騎士は見守っていた。


勇者歴15年(秋):勇者、四天王土の不死王を討ち取る。

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