第76話 対不死王~卑劣なる策~

不死王の絶叫が木霊し、暗黒騎士は何か申し訳ない気分になりつつも、まぁ敵なので問題ないかと開き直って勇者一行に声をかける。


「相手は今までのような雑魚とは違うぞ、気を引き締めていけ」

「うん!」


勇者は頷き、正面の敵を見据える。


「くっ…何でこっちより切り替えが早いんだこいつら…!

 ま、まぁいい、こうなれば直接相手をしてやろう!

 我は魔王軍四天王が一人、土の不死王!」


不死王が法衣を脱ぎ捨て、黒衣にマントを羽織った衣装へと変わる。


「それに…フフ、誰かと思えば負け犬の姫様ではありませんか。

 生きていたとは驚きましたが、人程度と仲良くやっているとは

 所詮貴方もその程度の存在だったという事ですね」


不死王は魔族娘を見つけ、目を細めて嘲笑う。


「フン、何とでも言え不死王よ。

 貴様はその”負け犬”以下にこれからなるのだからな」

「チッ…口だけは達者な娘だ! 今年で35歳の癖に!

 私は貴女みたいな似非少女が一番嫌いなのですよ!」

「歳は今関係ないだろ!? この少女趣味!」


程度の低い悪口を言い合いながら、いがみ合う魔族娘と不死王。

その間で戦闘態勢のまま、どうしたらいいのかオロオロしてる聖女様。


「子供の口喧嘩かよ!? 今は敵だけど流石に聖女様に同情するわ!」


剣士がどんどんレベルが低くなる二人の口論に割って入って無理やり終わらせる。


「ふぅ…私とした事が取り乱しました」

「ほんとな」

「貴様らの相手をしてやるが、私の許まで辿り着けたらの話だ! 聖女よ、来い!」


不死王の呼びかけに聖女が頷き、その傍に駆け寄る。

不死王がマントを翻らせて聖女を包み込むと、共に自身の影の中に潜り込んでいく。


「ククク…礼拝堂で待つぞ、人間達よ!  アッツ!」

「チッ、逃げやがった! 何か最後に『あっつ』って聞こえたけど」


不死王の姿が消え、剣士が舌打ちを打つ。


「礼拝堂っていうと、この中だよね?」


勇者は大教会を指さし、それに女神が頷く。


「えぇ、信者達に頑張って作らせた自信作です。

 そんなに離れた位置にあるものじゃないですよ」

「作らせた言うな」


鼻を高くしている女神に呆れる暗黒騎士。


「ですが、罠ですわよね?」

「だろうね~」


魔法使いが不安そうに尋ね、勇者もそれを肯定する。


「まぁ、なんとかなるさ! やってみよう!」


だが、その上で罠が張られていたとしても真正面から乗り込んでいく。


「あぁもう、そんな堂々と乗り込まないでくださいまし!」


後に続く魔法使い。


「まぁ、勇者の言う通りよ。あんな奴の小細工なんてぶち破ってやればいいのよ」


魔族娘も拳を鳴らしながら続いて入ってくる。


「お前らなぁ…少しは気を張って…いって!?」


剣士も苦言を呈しながらも後に続こうとして、まるで見えない壁に頭でもぶつけたかのように弾かれた。


「何をやっておるのだ、お主?」


尻もちを突く剣士を訝し気に暗黒騎士が振り返る。


「い、いや、何かここに見えない壁があるんですけど?」


そう言いながら、何もない空間をペタペタと触っている剣士。

勇者達と暗黒騎士はその奇妙な仕草に首を傾げる。


『フハハハハハ!! かかったな馬鹿め!

 これは我が聖女に張らせたその名も『純潔結界』!

 その名の通り、外から来る者は清い身体の者しか入れんのだ!』


空間に不死王の声が響く。


『ククク…見るからにヤバ気な格好をした魔術師や35歳、暗黒騎士にはこの結界を通る事は出来んぞ! たった一人で我と聖女の相手が出来るかな、人族よ!』


不死王の説明に凍り付く一同。


「いや、ちょっと待て不死王。 それ条件はつまり?」

『うむ? 言葉のままだが?』

「ハイ、一回待て、ちょっと待て」


暗黒騎士から制止がかかる。


IN:勇者、魔法使い、魔族娘、暗黒騎士

OUT:剣士


「ふぅ…何か手違いがあるようだな」

「えぇ、これはちょっと何か失敗があったに違いないわ」


お互いに頷きあいながら暗黒騎士と魔族娘が大教会から出ようとして剣士と同じように、しかし逆方向に弾かれる。


『フハハハハハ!! 一度入ったものは出る事は叶わんぞ!』

「お前、やっていい事と悪い事の区別もつかんのか!」

「絶対許さないからな、覚えてろよお前!」


今までにない位ブチ切れている暗黒騎士と魔族娘。

それに対してキョトンとしている勇者と魔法使い。

二人と目を合わそうとしない剣士。


『え、いや、ちょっと待て、多いだろ貴様ら!? 何故はいれて…あっ』


結界内に立ち入った人数に気づいて動揺する不死王。


『…すまん』


流石に謝った。


「ね~? 行かないのおじさま? あと何でお母さんちょっと嬉しそうなの?」


入り口で一行を見送っていた夫人が何故か照れている事に首を傾げる。


「お、大人の事情よ、頑張ってね!」


誤魔化すように手を振っている夫人に疑問は尽きないが、勇者は取り敢えず不死王打倒を優先する事にする。


「取り敢えず、兄弟子は魔女さん達と外の事お願いね。

 こっちはおじさまと私達でやっつけてきます!」

「お、おぅ、聖女様はやっちゃ駄目だからな?」


何故か気まずそうにしている剣士達に外の事を任せて大教会の中へと進む勇者達。

その中で兜の奥から鋭く眼光を光らせている暗黒騎士が魔族娘に声をかけ、


「全力で消せ」

「言われずとも」


全身から覇気を漲らせた二人は不死王殲滅を誓うのだった。


勇者歴15年(秋):暗黒騎士と魔族娘、バレる。

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