第74話 対不死王~大教会前の攻防~
『
本来は対象が受けた負担を肩代わりし、対象者が受ける一切の障害を発動者側が受ける聖魔法の一つ。
しかし、今回聖女が発動したそれは不死王が改良を加えた反転術式である。
対象の一切を発動者側に委ね、対象者を意のままに操る『
それを豊穣祭の為に集まった百万を越える観衆へと放つ。
そうなれば、この聖都中に集った観衆は聖女の虜となり、その聖女を支配しているのは不死王である為、そのまま新魔王軍の傘下へと収まる事になる。
無論、このような大規模術式を聖女といえど普段は使用する事は本来はあり得ない。
しかし、豊穣祭の間、聖都の地下に張り巡らされていた特殊な結界が聖都の来訪者からほんの僅かに魔力を奪い、
一人一人からは微量といえども百万を越えれば膨大な魔力へと変換して行っていたのである。
それが、今は聖女へと流れ込んで広大な術式を発動させようとしている。
「おいおい、何だか知らねぇけどこりゃやべぇぞ!?」
「と、とんでもない魔力ですわ…あり得ない…」
聖女から感じる魔力の圧に剣士はたじろぎ、魔法使いは冷や汗を浮かべている。
そんな中、暗黒騎士を信じる勇者だけが驚きもせずに事の成り行きをただ見守っていた。
聖女が祈りを取り、聖魔法の句を唱える。
「『
術式が発動し、聖都中を淡い光が包み込む。
こうして、聖女にただ身を捧げる羊となった者達だけが聖都に残る事に、
「プッ」
静寂の中、誰かが吹き出す声。
「あ~、もう限界。 流石に仕込みが丁寧過ぎたかぁ、まぁ、いい顔が見れたからいいけど」
聖女と相対するマジカル★デスウィッチが腹を抱えて笑っている。
「何だ…何を笑っている貴様…いや、何故術式が効いていない!?」
その様子に取り乱す不死王に対して、マジカル★デスウィッチが涙を拭くと彼の方へと向き直る。
「あー、それ? つまりはこういう事よ」
マジカル★デスウィッチが指を鳴らす。
「貴方達、ここは危ないからおうちに戻ってましょうね」
その声に従うように、観衆達は無表情のままぞろぞろと家路へとついていく。
「ば、馬鹿な…まさか!?」
その意味を理解して不死王の表情が驚愕を浮かべる。
「そっ、丸々乗っ取ったわ」
「馬鹿な~~~~!?」
そんなものはただの一介の旅芸人の出来る所業ではない。
いや、そもそも地下の管理をさせていた眷属からそんな報告は上がっていない。
「全く、搦手を使う時は常に些細な事にも気を配るように言っていたでしょう。
貴方は才能はあってもすぐに慢心するから駄目ね」
「何を…何を言っている貴様…?」
訳が分からないといった様子の不死王にマジカル★デスウィッチは溜息を漏らす。
「ここまで言って、まだ理解出来ないの不死王?
お前にそういう戦術を仕込んだのが誰だという事も」
マジカル★デスウィッチがその場に座るような姿勢を取る。
それを彼女の影から生えてきた無数の骸骨達が支え、彼女は骸骨達で出来た玉座へと腰掛け足を組む。
「そんな…お前は…いや、貴女は消えた筈だ…死霊王!?」
目の前の少女の正体がかつての自分の師であり、10年前に研究所の事故で消えた筈の死霊王だと気づいて不死王の血色の無い顔が更に蒼褪める。
「ククク…そうやって、自分の想像の中でしか物事を捉えられない事が貴方の限界よ。現にこうして私はお前の前に居る」
「くっ、旧魔王の敵討ちだとでもいうのですか!」
その言葉に更に溜息をつくマジカル★デスウィッチ。
「そんなの、やろうと思うならとっくにやってるわよ」
「ならば、何故此処で邪魔をする!」
「そんなの決まってるじゃない」
マジカル★デスウィッチが次に繰り出す言葉に備える不死王。
「貴女は私のステージの邪魔をした、他の子のものもね」
さも当然かといった様子で、腰かけた姿勢のまま手を振るマジカル★デスウィッチ。
「……? ん?」
「何?」
「え、いや、えっ…それだけ?」
「それ以外に理由が必要なの?」
「ちょ、ちょっとタンマ」
思わず考えを整理する為にマジカル★デスウィッチを手で制する不死王。
マジカル★デスウィッチもそれに律義に従って待っている。
「え、という事は別に私が動いているのを知ったから邪魔した訳じゃなく?」
「すっごい無粋な仕掛けしてる奴がいるの分かったから動いただけね」
「私が此処にいるのは知っていた?」
「よく似たような手口を使う奴が居るなぁとは思ってた」
「つまりは?」
「ただの偶然」
沈黙。
「先代四天王は馬鹿だ馬鹿だとは聞いてたけどここまでだったのか!!」
「ちょっと、いきなり失礼じゃない!?」
流石にここまで行き当たりばったりで丁寧に仕込んでいた仕掛けを潰されたらたまったものではない。
「いや、しかし何故我が眷属たちは…」
「あぁ、それ?」
マジカル★デスウィッチが指を鳴らすと、
隣に司祭の格好をした不死者が降り立ち跪く。
「そいつは!?」
地下の管理と報告をさせていた筈の不死者の登場に驚く不死王。
更に指を鳴らすとべろりと全身の皮が剥がれて骸骨の姿へと変わる。
「そういう体制は一人に集約させない方がいいわよ、とっくに捕まえて改良済」
「くっ、腕だけは衰えていないのが忌々しい!」
本当にね。
「まぁ、私はこれ以上手出しはしないわ。決着を付けるのはこの子達」
その声に合わせるように家路につく人々の流れが割れ、
開いた道を勇者一行が歩んでくる。
「お祭りの邪魔をしたのは貴方だね、悪いけどケジメを取って貰うよ!」
「勇者ちゃんそこじゃない、そこじゃないですわ!相手は魔王軍の者ですわ!」
「大方、聖女さんを操ってんのはアンタだろ? 悪いけど、解放して貰うぜ!」
「首謀者は貴様だったか、不死王! まずは父の仇の一人目だ!」
歩み出てきた3人の少女と一人の青年、
そしてその背後にいる巨大な影に目を見張る。
「お、お前は暗黒騎士…貴様も生きて、いや、この者達は貴様の手先か!」
「いや、我はただの同伴者」
手を振って否定する暗黒騎士。
「何なんだよ、もぅ!」
不死王の心からの絶叫が広場に響いた。
勇者歴15年(秋):勇者一行、不死王と対峙する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます