第73話 豊穣祭~結果発表と罠~

2日目が終わり、3日目の朝が訪れた。

この日はこの2日間の演目で最も優れていたと思われる演技者に投票し、優勝者を決める流れになっている。

広場には様々な人が列を成して思い思いに演技者へと票を入れていた。


「師匠達はいかないんすか?」


出店の珍しい焼き串料理を食べながら剣士が暗黒騎士達に質問する。


「ウム、まぁどうしても贔屓目になるのもあるし、我らにしてみれば皆素晴らしき演技だったからな」

「ふふ…強制退場も居りますけどね…」


その傍では自分の何が悪かったのかいまだに分からずに落ち込んでいる魔法使いが居るので咳払いをして誤魔化す暗黒騎士。


「う~ん、私も結構自信あったけど優勝はマジカル★デスウィッチさんか、まーちゃんだろうなぁ」


一口サイズにカットされた果物を頬張りながら勇者も若干悔し気に感想を漏らしている。


「あら、勇者ちゃんもやっぱり出てたの? お母さん見逃しちゃったわ、残念」

「え~!! じゃあ、今度おうちで見せる?」

「いや、うん、それはまた今度な」


結局、夫人にはあの舞台で大暴れしていた邪神娘が貴女の娘ですとは言えなかった暗黒騎士は慌てて話題を逸らそうとする。

寝込むだろ、あんなの。


「あぁ、それだったらあたしは優勝はないわよ?」

「ムッ、それは何故だ?」

「だって、あの後すぐに辞退したし、あたし」


果実水を飲みながらあっさりとした調子で告げる魔族娘に傍にいた暗黒騎士達は一瞬沈黙してしまう。


「な、お主、あれほど根を詰めて頑張っていたのに何をしている!?」


魔族娘が真剣にこの日に向けて努力していたのを知っているので、彼女がやった事が信じられないといった様子で慌てる暗黒騎士。


「ウィッチさんへの恩義か? いや、あの人がそんな事されたとか知ったら怒ると思うぜ流石に!?」


剣士も同様に慌て、魔族娘の取った行動を理解出来ずに困惑し、

勇者達も口こそ挟まない者の魔族娘の真意が分からずに困った表情をしている。


「あら、別にそんな事はないわよ? 私には真っ先に打ち明けてくれたし」


そんな風に慌てている勇者達の許へ、その話をされている当人であるマジカル★デスウィッチが歩み寄ってくる。


「うん、まぁ皆が不審に思う気持ちは分かるが聞いてほしい。

 私は別に優勝したかった訳じゃなく、あの場を借りて今の自分が確かめたかっただけなんだ。

 別に昔の自分を魔王の娘としての自分を忘れる気はないけど、

 ただ、ありのままの自分って奴を表現してみたかった。

 それであそこに居た人達にあんな風に認めて貰えたからそれで十分。

 それに、どっちにしろ今のままじゃ表現者として足元にも及んでないしね」


それは自嘲でもなく、今のやりたかった事を出し切った満足そうな会心の笑みで、暗黒騎士達もこれ以上は口を挟む事自体が野暮なのだと理解し、

それぞれが魔族娘の頭を撫でたり、肩を叩いたり、抱きしめたりしてその選択を彼らなりに祝福する。


「ふふん、それに私も別に負けたとは思ってないしね!

 決着は次の機会に決めましょ?」


マジカル★デスウィッチも魔族娘へと満面の笑みで手を差し出し、


「座長…ハイ! けじめをつけたら必ず!」


二人が握手を交わすのを見届けた勇者一同。


「貰えるもんはもらっときゃいいのに、勿体ない」


それを空気が読めない女神が水を差したので暗黒騎士は頭にチョップを入れた。



夕刻、全ての投票が終わり、大教会の前に観衆が集まる。

この後、聖女が今年の優勝者を発表し、直接祝杯を授けるという流れらしい。

ざわつく観衆の前で大教会の扉が開き、聖装を身に纏った聖女と大司祭らしき人物が響き渡る聖女を呼ぶ声の元、観衆の前へと進みだしてくる。


「あら?」


その様子を眺めていた魔法使いが首を傾げる。


「ムッ、どうした? 何か気になる事でもあったか?」

「えぇ、ハイ。 大司祭はもっとお年を召した方だと伺っていましたので」


聖女の傍にいる大司祭と思われる人物はどう見ても青年といった様子の美丈夫だ。


「成程、“アレ”か」


その言葉に何か得心が言ったというような様子の暗黒騎士。

その様子に意味が分からずに勇者一行は首を傾げるが、


「今年の優勝者は、素晴らしい讃美歌と歌劇を披露してくれたマジカル★デスウィッチ氏に決まりました!」


聖女の優勝者を告げる声でその疑問も無理やり中断させられる。


「じゃあ、行ってくるわ。…この後は手筈通りに」


マジカル★デスウィッチが暗黒騎士達に手を振り、暗黒騎士もそれに頷く。


「手筈通りって、何かあるのおじさま?」


勇者が暗黒騎士に尋ねる。


「むっ? あぁ、そういえば説明していなかったか…まぁ問題ない。

 どちらにせよ、


何かを知っているような様子の暗黒騎士。


「そっか、じゃあ安心だね」


その様子に、それ以上は聞かなくても問題ないと勇者も聖女達の方へと向き直る。


大教会の前に聖女と大司祭、それに表彰されるマジカル★デスウィッチが相対する。

不意に、大司祭が肩を震わせ出す。


「クク…ハハハハハ! 愚かな人族達よ、貴様らのお陰で準備は整った!

 褒美として聖都に集う貴様らを生涯醒めぬ夢へと誘ってやろう!」


大司祭、もとい大司祭に扮していた不死王は高笑いをし、それに呼応して聖女を中心とした大規模な術式が聖都中へと展開されていくのだった。


勇者歴15年(秋):不死王、罠を発動する。

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