第71話 豊穣祭~勇者、魔法使いの場合~

豊穣祭が開幕した。

3日間に及ぶこの祭典の初日ですら膨大な人の群れが街を賑わせており、流石の勇者一行も勇者を除いて緊張で息を呑む。

剣士と魔法使いにしてみれば、そもそも旅芸人でもないのに何で自分達まで大道芸大会に参加させられてるんだという根本的な疑問もあったりする。


「フフフ…緊張しているようですね。

 ですが大丈夫です、この私が皆さんには着いているのですから!」


特に根拠のない自身で女神Pが両腕を組んで偉そうにしている。

なお、この1か月と少し、特にこの女神が4人に何かをしたという事実はない。


「いや、お主は別に何もしていないではないか…」

「分かっていないですね、魔族!

 この祭りの主役という私が居るだけでご利益確実ですよ!」

「だったらまず、お主が食い散らかした出店の金を返せ」

「ふぅ…私とした事が皆さんに女神パワーを与え過ぎたようです…暫くは奇跡も起こせないようですね」


暗黒騎士が女神に向かって手のひらを差し出すと、

口笛を吹きながら目を逸らす女神。


「チッ…まぁいいが、初日は勇者と魔法使いの舞台か。

 二人共頑張るのだぞ」


暗黒騎士が勇者と魔法使いに向き直り、声をかける。


「もっちろん、見ててよおじさま! とっておきのネタを魅せるね!」

「は、ハイ! お師様に相談して私も”魅せる技”というのを学んできましたわ!」


元気よく頷きかける二人に暗黒騎士も頷き返す。


「ウム、凄く不安」


長年の勘でこの後の展開を薄々予想出来てきた暗黒騎士だった。


そんなこんなで、暗黒騎士、夫人、魔女、女神の保護者組(約1名ただのお荷物)は購入しておいた桟敷席にて勇者達の出番を待っていた。


「順番通りであるならば、まずは魔法使いからか」


演目表に目を通していた暗黒騎士が舞台に顔を向ける。


「フフフ…見てなさいね皆。 私が持てる技術の粋を尽くして最愛の弟子に仕込んだ一芸というものを魅せてあげるわ!」


魔女が鼻を高くして魔法使いが出てくるのを待っている。

次の演目の開始を告げるラッパが鳴り、舞台のカーテンが開いていき、そこには色々ときわきわの水着を着た魔法使いが舞台上に設置された棒に艶めかしくしがみついており、観覧先の老若を問わず男達の生唾を飲み込む音と女性達のしらけた雰囲気が伝わる。

夜の酒場で鳴るような音楽が鳴りだし、魔法使いが動こうとすると同時にカーテンが強制的に閉められた。


「「「……」」」


何も言えなくなっている3人。


「こらー! 何で急に閉めてんのよ、ここからが本番なのに何やってんだ運営!

 責任者出せ責任者!」


一方、一人だけそういうお店で嬢に絡むおっさんみたいになっている魔女。

舞台に運営と思われる者が上がり、観客に向かって説明する。


「え~、只今の演目は秩序良俗に著しく抵触すると見做し、倫理を重んじる教会として失格と致します。 期待された皆様には大変申し訳ございません」


運営の人物はぺこりと頭を下げると舞台を降りていく。

初めは騒いでいた男客もそれなりに居たが、周囲の女性客の冷たい視線に耐えられずにすぐに黙り込んでいた。


「はぁぁぁん? これは明らかに陰謀だわ!」


なお、約1名だけ未だに納得はいっていない模様。


「落ち着け魔女よ、参加規程に思いっきり書いてあったからな?」

「え、別に脱いでもないのに?」

「あぁ、うん…お主の中では『あの程度』なんだろうな…」


でも淫魔基準で魔法使いに色々仕込まないで欲しいと切に願う暗黒騎士。


「ま、まぁ、気を取り直して見守りましょう。次はあの子の番みたいですし」


夫人が場の空気を変えようと手を叩いて二人の気を逸らすが、その笑顔は若干引き攣っていたりする。


「ムッ、そうでありますな。 さて、あの娘はどのようなものを見せてくれるのか」


やたらと自信満々だったのが凄く気にかかる暗黒騎士。

勇者の出番が近づきだすと何故か俯いている女神。


「あ、始まるようですよ」


演目の開始を告げるラッパが鳴り、カーテンが開いていく。


其処には顔を白塗りに染めて目の周りに黒い隈どりを塗り、刺々しい肩パットをつけた漆黒の衣装に身を包んだ勇者が、

魔改造したリュートを手に持ち拡声用魔導具を手に持つ。


「貴様らを石人形にしてやろうかぁ!!」


大声で叫ぶと年老いた者達はポカンと口を開け、若者たちは一瞬の静寂の後に歓声を上げ始める。


「Do It!」


それに合わせてリュートをかき鳴らし、何処から出してるのか野太い声で不穏な歌詞の歌を熱唱している勇者らしき魔族みたいな衣装の娘。


「女神よ、お主、知ってたな?」


暗黒騎士が俯く女神に顔を向ける。


「違うんです違うんです、私は確かに『信者のハートを掴むなら派手な方がいい』とは言いましたよ?そしたらあの子がどんどんこう自分で演出考え出して私的には自主性を尊重したというか任せてたらどんどん過激な方に動いていったというか」

「あっ、火を噴いた」


女神が弁明している間、舞台上の勇者らしき自称数千歳の邪神は舞台で口から火を噴いている。

そのパフォーマンスに一部の若者が熱を上げているが、大多数は完全に圧倒されて呆然と勇者だったらしい邪神の演目が終わるのを何も言えずに眺めていた。


「さらばだッ!」


魔改造リュートを舞台に叩き付けてへし折ると一部の狂信者を獲得した邪神娘が腕を高々と掲げながら舞台を降りて行った。


「……凄い人でしたね、ところであの娘の出番はまだでしょうか?」


アレが貴女の娘ですとは言えない暗黒騎士達だった。


勇者歴15年(秋):邪神娘(勇者)、一部の層に受ける。

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