第70話 とある追っかけ、推しの再活動を知る

その女性は配布されていた演目予定に目を通して、震えていた。


「ほ…本当に、本当にマジ★デスの名前がある…」


4年前、最後の歌劇を締めに活動終了と聞いていたが、

噂では魔界に見切りをつけただけともマジ★デスの応援団の中では囁かれていたし、

応援団の上位会員などは活動終了と同時に行方を眩ませた者も複数居たのも確かだ。

自分も今の立場に着いてさえいなければ、着いていきたかったと後悔しさえもした。

そんな自分の中で悲しくも終わった夢だと諦めていた

マジカル★デスウィッチの舞台をまた見る機会に恵まれるとは思いもよらなかった。


「ハァ……これが仕事の延長じゃなければ最高だったのに…」


この日、彼女は聖都を現在の拠点にしている同僚から必要物資の打診を受けて来訪していた。

いけすかない相手で、今も傍に女を控えさせていたり(何故か1m以上は近寄らせなかったが)、

今回の作戦が成功したら自分が筆頭になるのだから今の内に自分に着いた方が良いんじゃないか?

と、無駄にこちらを煽ってくるのにはうんざりした。


「顔だけの自己愛性者の癖に」


会談の時の事を思い出して、吐き捨てるように呟く。


「マジ★デスは2日目かぁ……本当ならもう帰んないと駄目だけど…う〜ん、偶には融通きかせてもらおうかなぁ…」


これまで、彼女は自分に与えられた役割に懸命に取り組んできた。

前任は確かに才能に溢れた存在だったが、やる事なす事適当で、

最後には男に逃げられたからって彼女に仕事を押し付けてサッサと逐電してしまった。

能力は尊敬してたが、人柄自体は全くもって好きになれなかった。

今でも地雷女だと思っている。

そんな元上司を反面教師にした為、今では「仕事の鬼」だの「真面目すぎてツマラナイ女」だの影で囁かれているのも知っている。


「私にだって趣味位あるわよ…時間がないだけで」


日頃の鬱憤を呟きつつ、人混みの中を出口に向かって歩いていたが、

余所見をしながら歩いて来た冒険者らしいむさ苦しい男と肩がぶつかる。


「おっとぉ? あぁ、こいつはいけねぇや。今ので骨にヒビ入っちまったわ!

 こりゃ、彼女に弁償してもらわねぇとなぁ!」


周りの仲間にアピールしつつ、手本のようなテンプレウザ絡みをしてくる冒険者。


「ハァ……うっざ」


ストレスが溜まりまくっていた所で絡まれた為、普段なら適当に流す相手も少し本気で相手してやろうかと顔を上げると、


「俺の連れになんか用? 何だったら俺が相手するけど?」


彼女の背後に立っていた剣士が冒険者達に声をかける。

始めは凄もうとしていた冒険者達も、相手が最近噂になっていた大会荒らしの二刀使いだと気づくと態度を一転させてサッサと逃げ出してしまった。


「恩でも着せたつもり?」


彼女は背後の剣士に嫌味を言う。

気付かぬ内に背後を取られていたという事を自分の中で誤魔化す為でもある。


「いや、あんたというよりさっきの奴らにだな。

 あんたなら一人でも全員殺しちまいそうな殺気放ってたし」


こちらの力を見透かすような態度の剣士に少しだけ興味が湧く。

どうやら、こちらのには気づいておらず、ただの実力者と認識しているようだが。


「お? あんたもまぁ豊穣祭観るのか。

 2日目なら俺の知り合いも出るんだよ」


彼女が持っていたチラシが目に入り、その話題を振ってくる剣士。


「ハァ? 貴方の知り合いなんかどうでも良いんだけど?」


それを冷たく突き放そうとして、


「マジカル★デスウィッチさんと、年上だけど妹みたいな…」

「その話、詳しく」


思いっきり食いついた。




「つまりね、マジ★デスの魅力は外見的な可愛さだけじゃなくて計算され尽くしたパフォーマンスと血の滲むような練習に裏打ちされた歌唱力から来るものなの勿論あのまるで絵物語から飛び出して来たかのような見た目も当然素敵あぁあの初めてマジ★デスの歌劇を観た時は天使と死神が同時に訪れたんじゃないかと衝撃を受けたものよ、それでね」


「わぁ、すっげぇ早口」


その後も、広場の椅子に座ったまま2時間ほど剣士にマジ★デスの魅力を語り続けた団員番号10番の風のハーピィだった。


勇者歴15年(秋):風のハーピィ、剣士と知り合う。

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