第69話 暗黒騎士と同窓

勇者達は明日の準備の為に一度実家へと戻った後、

夫人や魔女達を連れて転移し直してくる。

折角なので関係者全員で豊穣祭を満喫したいという勇者の発案であり、

皆もそれを断る理由も無かったので自分達の知り合いに声をかけていた。


その間、暗黒騎士は聖都に残り、マジカル★デスウィッチと宿の手配などを分担して行っていたのだった。

そうして未成年の勇者達は手配した宿に案内した後、暗黒騎士達は用意しておいた酒場の個室にて、久しぶりの戦友との再会に盃を交わすのだった。


「アハ、アハハハハハハ!! ア、貴女、ソレ、アハハハハハハ!」


マジカル★デスウィッチを死霊王だと紹介された魔女は一瞬ぽかんと口を半開きにした後、暗黒騎士に確認するかのようにマジカル★デスウィッチとを交互に指さし、

暗黒騎士が気まずそうに頷くと吹き出して腹を抱えて爆笑している。


「お、おぅ、マジか…ま、まぁ、他人の事だからな…口出ししねぇけどよ、うん」


魔女経由で呼び出された竜王もその隣で何とも言えない表情で取り敢えず酒を喉に流し込む事にしているようだ。

その気持ち凄い分かるわぁと言葉にせずに竜王を見つめる暗黒騎士。


「ムゥ~! こっちだって好きであんな種族に産まれた訳じゃないんだからね!

 私はこの姿に成れてやっと自分の夢を見つけれたんだから!」


爆笑している魔女にふくれっ面で反論しているマジカル★デスウィッチ。


「いやぁ、でもまさか精霊王とは違う意味で堅物だと思ってた貴女がこんな趣味だったと思わなくて…ハァ…落ち着いたわ、もう大丈夫」


腹を抑えつつ、何とか息を整えてマジカル★デスウィッチを真剣な表情で見つめる魔女。


「しかし、改めて見ると凄いわねその身体。フレッシュゴーレム死体を素材としたゴーレムって訳じゃないんでしょ?」

「そうよ、無から生命を生み出して構築した、まさに禁忌の技術の結晶よ!」

「へぇ~…その技術、伝える気は?」

「駄目」

「ケチ」


魔術に詳しい女性陣が話し込み、お互いにべーっと舌を出しあっている。

旧四天王達も魔王や暗黒騎士達と連れ立っていた時は全員が全員、我が強い割にそれなりに仲が良かった。

それは裏切った精霊王ですら彼らの輪に加わっていたほどで。

なのでこの光景はどこか懐かしく、同時に二度と元には戻らないものだという柄でもない感傷に暗黒騎士も襲われてしまう。


「なんだなんだ、しみったれた顔をしてるな!」


そんな暗黒騎士に気づいたのか、竜王がジョッキを片手にその背中を叩く。


「ムッ、そこまで顔に出ていたか?」

「あぁ、バレバレなほどにな!」


その言葉に暗黒騎士も苦笑し、酒で過ぎった感情を流し込んでいく。


「それにしても、どういう経緯で再会した訳?」

「ん? あぁ、それはだな…」


暗黒騎士がマジカル★デスウィッチと再会した経緯を説明すると、ワインを優雅に飲みつつ話を聞いていた魔女は思いっきり吹き出した。


「ちょっ、やめてよ、汚いッ!」

「ム、ムリ…な、何で貴女が…劇団の座長に…ブフッ…お腹痛い…」


腹を抑え、痙攣するようにビクビクしている魔女。


「全く、ただでさえ酒に弱いのに悪酔いしすぎだな…」


仕方ないと道具袋の中から酔い覚ましを探す暗黒騎士。

それまではワインを吹きかけられて必死に服を拭いていたマジカル★デスウィッチが不意に真面目な表情になって3人に向き直る。


「そういえば、もう気づいてる? この町の異質さ」


その言葉に他の3人の表情も変わる。


「あぁ、実際に感じてみれば中々にな」

「…“仕掛け”の事でしょ? 流石に気付くわよ、中々丁寧に仕込んでるけどね」

「あ~、何か色々気配がするとは思ってたんだよな」


マジカル★デスウィッチもそれに応じて溜息をつく。


「私も本当は無視するつもりだったんだけどね、ちょっとこれは実際に見てみると“許せない”かなって」


暗黒騎士は探し当てた酔い覚ましを魔女に投げ渡しつつ、3人に目を向ける。


「夜明けまでに片付けるか?」

「あ~、頭痛い…まぁ、それくらいで平気じゃない?」

「まぁ、俺もチビ達が祭り楽しみにしてるからいいけどよ、お前んとこのチビ共には黙ってていいのかよ?」

「いいのよ、ヒメちゃん達にはお祭り優先で」


それまではだらけていた雰囲気の四人の気配が変わる。


「お代わりお待たせ…ヒッ」


代わりの酒を持ってきていた店員が、扉越しに漏れ出したその凍てついた殺気に腰が抜けてへたり込んでしまっていた。


「すまんな、怪我はないか?」


ゆっくりと開いた扉から顔を出した暗黒騎士が店員を助け起こす。


「代金は置いておく、釣りはいらんので迷惑料として受け取ってくれ」


それなりに硬貨が詰まった袋を店員に渡し、それを受け取った店員は先程の殺気を思い出して顔を蒼褪めさせながら急いでその場から逃げ出していく。


「ありゃ~、悪い事しちまったな。 まぁ、気絶させなかっただけマシか」


頬を掻いている竜王に、他の二人も少しバツが悪そうにしている。


「…迷惑料は大目にしてある。 さて、久々にやるか」


こうして三人の王を冠するほどの実力者とそれらの上に立っていた暗黒騎士が聖都での暗躍を始めるのだった。


勇者歴15年(秋):豊穣祭の裏で旧魔王軍最高幹部が動く。

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