第68話 勇者一行、聖都観光をする
聖都。
女神を崇拝する大教会を中央に擁し、
人界全体の教会を統治する一大宗教都市である。
普段は荘厳で潔癖さを感じさせる街並みだが、
この日ばかりは人の波と熱狂に包まれている。
年1回3日間に及ぶ豊穣祭への準備の為、宗教家、農民、労働者、冒険者を問わず様々な人がごった返して通りを賑わせていた。
「はぇ~、すっごい人の数。 うちの王都の何倍もいるね」
周囲を見回しながら、勇者が組み上げられている出店等を眺めて鼻息を荒くする。
所詮は小国である勇者達の産まれた国と違って、聖都はそもそもの規模が違う。
其処に生じる利権は比べるべくもない為、この日に合わせて様々な商会も他を出し抜こうと虎視眈々と機会を狙っている程だ。
この祭りで名を残すという事は、人界全体へ影響を与えるといっても過言ではない。
「おいおい、あんまきょろきょろしてると田舎もんだとバレちまうぞ?」
年相応の反応を見せている勇者を剣士が苦笑いしつつ窘める。
「別にバレても恥ずかしくないのでへーきです!」
もっとも、そこで都会ぶる気もない勇者にはあまり意味のない言葉なのだが。
「まぁ、この人の数だ。 逸れると面倒だからあまり動き回らぬ方が良かろう」
はしゃいでいる勇者を暗黒騎士は手招きして傍に来るように促す。
「ハイ、おじさま!」
こういう時は素直な勇者が暗黒騎士の傍に駆け戻ってくる。
「さて、先ずは運営事務局とやらに申請を出すのでいいのだな?」
「そっ、何ならうちの団員に手続き取らせるから、
貴方達は観光してきてもいいわよ?」
暗黒騎士がマジカル★デスウィッチに豊穣祭への参加申請を確認するが、
向こう側から助け舟を出されてしまう。
「流石にそれは手間をかけさせすぎる気もするが…」
「いいのよ、登録名と人数だけ合ってれば一括で手続しちゃった方が、
結果的に早いし」
「むぅ…」
マジカル★デスウィッチの提案に暗黒騎士は難色を示すが、背後の少女達は観光と聞いて明らかに期待に満ちた目でこちらを見つめている。
暗黒騎士は仕方ないと一つ溜息をつき、
「すまんな、手間をかける」
「いいのいいの、旅は道ずれでしょ?」
申し訳なさそうに頼む暗黒騎士にマジカル★デスウィッチはウィンクで返した。
「じゃ、私は手続きの方に回るから。夜にでもまた会いましょ」
「あぁ、他の二人にも声をかけておく」
「え~、あいつらも来るのぉ~…」
暗黒騎士の言葉に眉をへの字に曲げながらも、何処か楽しそうな様子。
「あ奴らも驚くと思うぞ、色々な意味で。 いや、本当に」
ハイハイと軽く手を振り、マジカル★デスウィッチは事務局の方へと向かっていく。
「さて、暫くは自由行動だな。 お主らはどうする?」
背後を振り返り、其処に立つ4人に質問を投げる。
「まぁ、お店とか見て回ろっかな~?」
「えぇと、私は掘り出し物の本とかないかちょっと見てきます」
「俺は適当に酒場にでも行ってますよ」
「私はもう少し本番の打ち合わせをしておくわ」
暗黒騎士の問いに、四者四様に答え、この中では一番はぐれるとヤバいタイプである勇者に着いていく事を決める暗黒騎士。
「では、夕刻までは各々自由に過ごすと良い、
あ、勇者よ待つのだ。 走るな。 そこは登っては…止まれ、止まるのだ!」
自由行動と宣言した瞬間に目の色を変えて突っ走って言った勇者を慌てて追いかけていく暗黒騎士。
それを残された3人は顔を見合わせて肩を竦ませた後、それぞれに離れて一時の休憩を楽しむ事とした。
勇者歴15年(秋):勇者一行、聖都に到着する。
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