第66話 魔族娘、打ち明ける
唐突だが、暗黒騎士の『生命探知』について説明しよう。
この技は生物の中に宿る気の流れを見極め、
対象の位置や数などを本来把握する技である。
この気の流れは生物のみならず、不死者や死霊などの生命亡き者や魂だけの存在などにも少なからず存在し、暗黒騎士はそれらにも対処する事が出来る。
これはその個体に一つ一つでバラバラに存在し、同じ流れは存在しない。
そう、同じ流れは存在しないのである。
「いや…その気は死霊王であろう?」
気の流れが見える暗黒騎士には例え姿が変わっていようと一目瞭然なのである。
まぁ、それでも記憶してる範囲で半透明の朽ちた王冠被った骸骨が、
少し青白い肌のゴシックロリータ調の衣服を身に纏った小柄の少女になってたら流石に何かの間違いだと思いたかったが、何度見直してもやはり昔の知人。
正直いろいろとヤバすぎて震えが止まらない。
「くっ…そうであった、こやつは奇妙な技が使えるのだったか…!」
それまではぶりっ子な口調だったマジカル★デスウィッチが古風な口調に変わる。
「ざ、座長…? まさか、本当に…死霊王なのか…?」
暗黒騎士の発言に衝撃を受けたのはもう一人いる。
演劇の師として慕っていた人物の正体が、昔から世話になっていた父親の配下が変化したモノだったという事実に魔族娘も色々な意味で愕然としている。
「姫様、隠していた事は申し訳ありませぬ。 しかし、我輩は過去を捨てた身。
例え姫様相手であっても自ら打ち明ける気はなかったのでございます」
もはや隠し通せぬと諦めた死霊王ことマジカル★デスウィッチが魔族娘に向かって頭を下げる。
「お、おぅ…急に昔の口調で話されると正直反応に困る…じゃあ、あの時私を助けてくれたのも?」
「えぇ、よもや人界にて姫様に出会う事になるとは思いませぬでしたが、一人困難に会われている姫様を見捨て置けず、あのような形で助けさせて頂きました」
「そうか…そうなのか…」
その言葉に何処か寂しそうな様子になる魔族娘。
「しかし姫様! 姫様が此処にて苦楽を共にした日々は決して嘘ではございませぬ!
それだけは誤解為されぬようお願いいたします!」
「うぅ、今のお前は存在が冗談のようなものだけど…確かにあの日々は私も『魔王の娘』という枷から外れて楽しい日々だった…」
この劇団の世話になっていた頃は確かに一人のただの娘として日々を楽しむ事が出来ていた。
しかし、それは『魔王の娘』としていつまでも甘えていてはいけないと思い、飛び出す事を選んだのも自分なのである。
「姫様、仇討を選ぶのも自由ではあります。
しかし、貴女様の生き様をそれだけに捧げるべきではありませぬぞ」
「……しかし、私は」
「我輩は、貴女が楽しそうに舞踊に取り組むのを見ておりましたぞ」
魔族娘の両肩に手を置き、マジカル★デスウィッチは優しく諭す。
「私は…自分の人生を楽しんでもいいのか?」
「勿論ですとも。
豊穣祭に出るのでしたら、あの舞踊をもう一度この我輩に見せてくだされ」
「死霊王…いや、座長!」
魔族娘は感極まったかのようにマジカル★デスウィッチに抱き着き、マジカル★デスウィッチも優しくその背を叩いている。
「いい話の筈なのだがな…」
最近の魔族娘の悩みが分かったものの、その解決者は少女化した元同僚で、
目の前で青春話をしている二人は見た目はどちらも少女だけど、どっちもとっくに成人済みな事がどうにも腑に落ちない暗黒騎士だった。
勇者歴15年(秋):魔族娘、自分の新しい生き方を受け入れる。
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