第64話 暗黒騎士、思わぬ再会
聖都への道のりは旅程自体はスムーズに進行していたが、勇者発案の豊穣祭でのそれぞれの参加計画は至難を極めている様子だった。
勇者により、それぞれ個別に発表するまで他の面子には内緒と仲間への相談が禁止されてしまった為、剣士達は暗黒騎士や女神、魔女などの豊穣祭不参加の面々に相談しているようだった。
そんな中で魔族娘だけがあまり積極的には動かずに、何か悩みを抱えているような様子が窺えた。
暗黒騎士達もそれは把握していたので彼女に話を聞こうとするも、この悩みは暗黒騎士達では解決出来ないと断られてしまっていたのである。
そうして、ほんの僅かに空気が張り詰めている旅路の中、その邂逅は突然起きた。
「ムッ、前方に旅の集団がいるようだが…何か問題があるようだな」
道の先に50人程度の集団が1台の脱輪してしまった馬車を戻そうと必死になっているようだ。しかし、非力な面子が多いのか、上手くいっていない様子が窺える。
「あれは…まさか…いや、間違いない! みんな!」
その言葉を聞いて馬車から外の様子を窺った魔族娘が急に飛び出していく。
「何だ…知り合いか?」
暗黒騎士達に合流するまでは一人ぼっちだったと聞いている魔族娘に知り合いがいるのかと首を傾げる暗黒騎士。
「…あっ、もしかして!」
その中で、唯一魔族娘の詳細な旅の経緯を聞いていた剣士が思い出したかのように顔を上げる。
「『深夜のお茶会』のみんなではないか! どうしてこんな所に?
あ、いや目的は聖都か」
声をかけながら駆け寄ってくる魔族娘を見て、その集団。
『深夜のお茶会』の面子も懐かしそうに言葉を返している。
「アレ、あいつが一時期世話になってったっていう旅芸人の一座ですよ!」
暗黒騎士に剣士は魔族娘の旅の経緯を改めて伝えた。
「そうか…そのような経緯が」
「すんません、あんま重要そうな話じゃなかったので省いてましたわ」
「いや、構わん。 こちらもきちんと尋ねなかったのが悪い。…しかし」
暗黒騎士は『深夜のお茶会』の面々と明るく話す魔族娘の姿に目を細める。
「あやつも、こちらで良縁に恵まれていたのではないか」
「…っすね」
最終的には自分から別れを告げて飛び出した相手だというが、
双方にとっても良き出会いだったというのが今の様子から見て取れる。
「どれ、折角だ。我らも手伝ってやろう」
「ウッス!」
暗黒騎士は魔導馬から降り、剣士も馬車から降りて魔族娘達の元へ向かう。
丁度その時に、
「あら、どうしたの? 懐かしい顔がどうって?」
1人の少女が向こう側から『深夜のお茶会』のメンバーに案内されて向ってくる。
「あ、座長!」
「うそっ! ヒメちゃんじゃない!」
「も~、またそんな呼び方する~、別に姫じゃないですってば!」
そんな風にやり取りしている魔族娘と「座長」と呼ばれた少女。
その姿を見かけた暗黒騎士は急に歩を止めている。
「どうしました、師匠?」
振り返った剣士はその暗黒騎士の姿を見て、ギョッとした。
暗黒騎士は明らかに見てはいけない者でも見たかのように狼狽えていたのである。
「あぁ、こいつらは、今、私が世話になってるもので」
魔族娘が「座長」に紹介しようと暗黒騎士達に手を向けると、「座長」の方も一瞬、何かに動揺したそぶりを見せるがすぐに笑顔に切り替わり、
「初めまして、私はこの『真夜中のお茶会』の座長を務めさせて頂いているマジカル★デスウィッチと申します。ヨロシクね?」
と、ポージングを決めて挨拶する芸名(?)を名乗る少女。
「あぁ、俺は剣士でこっちは師匠の…」
剣士も挨拶を返そうとするが、その後ろで、
「な…何やってるのだ…死霊王…」
震える声で暗黒騎士は座長の少女に呼び掛け、
「…ナンノコトデスカ?」
死霊王と呼ばれた少女は全身から一気に汗を噴出させながら棒読みで否定した。
勇者歴15年(秋):暗黒騎士、変わり果てた同僚と再会する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます