第62話 魔法使い、明かされた真相

勇者一行が砦を解放してから10日ほど経過した後、王宮からの使者が頼まれていた伯爵家お取り潰しの原因となった事件の再調査が終わった事を報告してきた。

詳細については法務長官から告げられるとの事で、王城内の執務室へと通された勇者一行はそこで先に待っていた意外な人物と出会う。


「お、お姉さま!? こちらにいらっしゃっておりましたの!?」


驚いた様子の魔法使い、それも当然で本来は村で既に平民の生活を満喫している筈の姉が身重の身体ながら法務長官と一緒に待っていたのだから。


「えぇ、貴女が我が家の名誉を取り戻そうと躍起になっている事は分かっておりましたが、まさか本当に成し遂げてくれるとは思ってもおりませんでした」


村でのハッスル母ちゃんと化している今の姿ではなく、貴族然としたお淑やかな態度の姉に若干の気持ち悪さは感じつつも魔法使いも同席を喜ぶ。

姉とは昨日も普通に一緒に夕飯を食べているので再会の喜びもへったくれも別にないのだが、これから家の事を聞くとなればここに姉が居てくれるのは心強かった。

(※勇者達は毎晩実家に転移で帰宅しています。)


「うむ、姉殿より事件の事で伝えたい事があるとの事でこちらに先に案内していた」


事前に魔法使いの姉より相談を受けていた暗黒騎士が魔法使いに説明する。


「え~、それではこれより調査結果をお話ししますがよろしいですか?」


一行が話し終わるのを待って眼鏡をかけた初老の法務長官が口を開く。


「あ、申し訳ありませんの。宜しくお願い致しますわ」


法務長官に待たせた非礼を詫びつつ、真剣な面持ちで続きを促す魔法使い。


「まず、伯爵家の罪ですが。禁止薬物の大量所持と領内への配布を試みようとしていると諸侯から告発され、その際に実際に大量貯蔵された禁止薬物の全量となる植物とそれらから成分を抽出する為の工房が発見された事が報告されております」


書類に目を通す法務長官の声は重い。


「そんな…何かの陰謀ではないですの?」

「いいえ、工房で働いていた者も伯爵家所縁の者である事は間違いありませんでした。 全員が供述しているので間違いありません。 ただ…」


魔法使いには絶望的な事実を述べた後、法務長官は眼鏡をかけ直す。


「肝心の禁止薬物だけが見当たりませんでした」


そんな奇妙な事実を魔法使いに告げる。


「この時点では状況証拠としては十分だった為、諸侯からの圧力もあり伯爵

家は罪人として裁かれております」

「冤罪ではなかったという事ですの…?」


がっくりと肩を落とし、表情を暗くする魔法使い。

勇者達もそんな彼女にどう言葉をかければいいか分からず、押し黙る。


「いいえ、冤罪ですわ」


其処に口を挟んだのは魔法使いの姉であった。


「お姉さま?」


ハッキリとした声で冤罪を訴える姉に魔法使いは顔を上げる。


「まず第一に、禁止薬物の原料になるとはいえあの植物の所持自体は合法でした筈ですわね?」

「その通りですね」


姉の指摘に法務長官も頷く。


「問題になったのは抽出を行う工房の存在、これを敵対貴族に利用されてしまいましたの」

「利用ですの? ですが、工房がある事はもう事実なのでは?」


姉は魔法使いの言葉に頷くが、


「そもそも用途が違ったのです」


その言葉と同時に執務室の扉が開く。


「その先は私が説明するわね?」

「お師様!?」


室内へと入ってくる魔女に魔法使いが驚く。

機会を見計らってスタンバってたんだろうか?


「人界ではあまり一般的ではないから抽出法があまり理解されてなかったようねぇ。

 あの植物は一部の成分を分解すれば、麻薬ではなく強壮剤として昇華できるのよ」

「そ、それはつまり…」

「そっ、貴女のお父様は領民に麻薬ではなく強壮剤を配布しようとしていたのよ。

 これ、当時の工程表を私なりに再現してみたものよ」


薬師でもある魔女が法務長官に複数の書類を手渡す。


「…成程! 確かにこの工程ですと途中で麻薬成分が発生してしまいますが、最後まで作業を行えばキッチリと成分が変化しておりますね」


書類に目を通した法務長官も驚きを隠せない様子だ。


「当時、領内では飢饉の影響で栄養の足りていない者が多くおりました。

 父はそんな領民の為にあの工房を作り上げていたのです」


魔法使いの姉がその話に捕捉して、当時の領内の状況を説明する。


「で、では…」

「えぇ、当時伯爵家を告発した者たちを調査し直してみます、

 誤認から義憤に駆られて先走った者もおるのでしょうが、

 中には意図的に無実の罪を着せた者が居る可能性もありますので」


その法務長官の言葉を聞いて魔法使いは姉と魔女へ振り替える。


「お姉さま…お師様!

 ありがとうございますの、私一人では何も分からない所でしたわ!」


先程までの暗い表情とは一転して明るさを取り戻した顔で姉と魔女に頭を下げる魔法使い。


「いいのよ、私なんて最初は諦めていたもの。

 でも貴女がここまで自らの力で漕ぎつけたんですよ、私はそれに便乗しただけ」

「可愛い弟子のお姉さんの頼みで調べてみただけよ、

 大した手間じゃないからそんな畏まらないで」


それを二人は優しく受け入れるのだった。


この後、伯爵家の冤罪に関わった貴族の内、誤認から先走ったものは軽い処罰を受け、明らかに意図して嵌めたと思われる貴族は相応の報いを受ける事となった。

魔法使いは国王から爵位復帰の話を受けたが、魔王討伐の旅が終わるまでは保留させてほしいと願い出たのであった。


勇者歴15年(秋):魔法使い、実家の無念を晴らす。

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