第61話 勇者、居場所を作る。
「フム、中々悪くない外観ではないか?」
勇者と暗黒騎士は二人は王都のとある場所を見物しに来ていた。
魔法使いの家族の事件調査は早くとも1週間はかかるとの事で、その間に出来る事として王に願い出たもう一つの頼みの方を解決しようとしたのだ。
「おー、なかなかおおきいおうちなのであります!」
その場にいるのは二人だけではない。
勇者達の背後ではファンシー小隊の面々が周囲にチラチラ見られながら控えていた。
「そうだよ、ここが今日から君達のおうち」
勇者が王に願い出た事は王都のそこそこ大きめな物件を紹介してほしいという事。
ただし、紹介までで構わなく、その後の改修や何やらはこちらで行うという条件で。
王としては別に買取まで全て行ってもよかったのだが、傍で話を聞いていた宰相や財務の担当者がこれ幸いと王を押し切ったので、
執政側としての手間は商会への仲介程度で収まってしまった。
これも暗黒騎士から聞いていた余計な貸しを作り過ぎないという教えからである。
執政側としては最小の手間でわずかな恩を、こちらとしても魑魅魍魎が跋扈する商会への信用を勝ち取れるので見極めとしては妥当な線である。
それに、
「いやぁー、流石おじさまだね。 私の考え聞いたらすぐにお金用意できるなんて」
実は暗黒騎士、そこそこ金を持っている。
しかも、この暗黒騎士、一応ギルドに登録した冒険者なのである。
この15年間で暇な時は単独で魔物の駆除や盗賊団の殲滅を行っていた。
しかし、始めの頃はそれを完全に個人で行っていたが、困った事が一つあり、冒険者として登録していた。
倒した魔物の素材や盗賊団が貯蔵していた金品の処理である。
戦利品は盗品であれば極力元の持ち主の元へ戻るように手配していたが、既に出所不明になっている金品などは仕方なく受け取っていた。
そういった金は夫人に自ら援助を願い出ても「日々の生活の糧があれば十分」と断られており、完全に死蔵しているその財産はギルドに預けっぱなしになっていた。
実はただの
ちなみにギルドでは偶にフラッと現れて大型の案件を単独で解決し、そのままフラッと帰る謎の騎士としてそれなりの伝説になっていたりもする。
勇者がファンシー小隊の居場所を作ってあげたいと暗黒騎士に頼み出た時に、暗黒騎士は夫人とも相談して、喜んでこの使い道の無かった金を差し出した。
「しかし、住居を与えるのはいいが、この後はどうするつもりなのだ?」
「へへ~ん、よくぞ聞いてくれました!」
暗黒騎士の疑問に勇者は待ってましたとばかりにこの後の事を説明する。
それから数日後、
「きょうからしんそうかいてんの『わんにゃんカフェ』にようこそなのだにんげん。 かんげいするぞ!」
専用に誂えた給仕服や燕尾服を身に纏ったファンシー小隊の面々が、黄色い歓声を上げながら行列を作る客を懸命に捌いていく。
「うわぁ…大繁盛…」
その光景を唖然としながら眺めている暗黒騎士。
「ぬっふっふっ、妹ちゃんやまーちゃん。それに砦に居た人達の反応見る限り、
これは行けると踏んでたんだよね!」
その様子を鼻高々といった様子で眺めつつ、説明する勇者。
勤労意欲を持て余しているファンシー小隊にその欲求を解消させつつ、自力で生活費も稼いで貰う案として出したのがこのファンシー小隊が給仕を行う喫茶店。
なお、調理だけは衛生面に配慮して商会から派遣して貰った料理人が行っている。
事前にファンシー小隊に行わせたビラ配りと宣伝でその愛くるしい見た目を披露し、王都の人々を虜へとしていた為、開店してすぐ繁盛する結果へと至る。
「これ、我が貸した金すぐに返してしまいそうだな?」
格好良く資金援助したものの、暗黒騎士主義の勇者が借りっぱなしで終わらす気がないのを理解しているので返済された後の金の使い道に頭を悩ませる暗黒騎士だった。
勇者歴15年(秋):勇者、王都に獣人喫茶を開業する。
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