第60話 聖都を目指すもう一つの影
「聖都の様子はどうだ?」
最低限の灯りしか灯されず、暗い室内で椅子に座る影は目の前の跪く配下に報告を促す。
「ハッ! やはり現時点では封鎖は解かれておりませぬが、奇妙な事に結界の存在も確認出来ておりません!」
「ほぅ…やはり聖女に何か有ったとみるのが正解のようだな」
椅子に座る影は足を組みなおし、腕を組む。
「豊穣祭の準備の方はどうだ?」
「ハッ、忍び込んだ者によればその期間だけ聖都の封鎖を解き、大々的に人を招くものと思われます! ただ、明らかに魔族の気配を感じるという事で何かの作戦の一環かと思われますがいかが致しましょうか?」
「構わん、こちらとしても豊穣祭が行われればそれで良し。
今更奴らの思惑なぞ知った事ではない」
影は鼻で笑い、聖都に居座る存在の事も一笑に付す。
「貴様らは変わらずに準備を進めておけ」
「御意!」
影は指示を下し、それに従って配下の者は部屋を出ていく。
そうして一人部屋に残された影は椅子から立ち上がり、鏡の前へと向かう。
「この力を得て、もう十年以上が過ぎたか…だが我輩が目指す頂は未だ遠い」
鏡に映る自分の頬を撫でる。
その姿は十年以上経とうと殆ど変化は遂げていない。
当たり前である、そもそも老化は設計時から組み込んでいないのであるから。
「魔界の連中は駄目であった。所詮は大半が戦の事ばかり考えるような脳にまで筋肉が詰まったような低俗な輩共…」
鏡に添えた手に力が入り、罅が入る。
「最初だけはこちらを持ち上げる癖に『え、何おさわり禁止?ならいいわ』等とすぐに飽きおって…我輩に着いて来た者は結局ほんの僅かだった」
鏡を強く叩き、罅が入っていたそれは派手な音を立てながら床に散らばる。
影は腕を振り、自身の手に食い込んでいた鏡の欠片を振り落とすと再び椅子に腰掛ける。
「ふぅ~…いかんな、怒りに支配されるとどうも昔の癖が出る。今の我輩…いや、私はもう以前の醜い姿ではないんだから」
それまでは何処か陰湿で重く響くような口調だった声が明るい女性らしい口調に変わる。
「そうよ、しっかりしなさい、マジカル★デスウィッチ! 貴女はみんなのハートと魂をキャッチする暗黒よりの愛の使者なんだから!」
そう宣言しながら影、もとい元旧魔王軍四天王土の死霊王だった存在。
死霊王が
今日もこれから地方巡業の
魔界で人気に陰りが出た彼もとい彼女は4年前に人界へと密かに移動。
各地で巡業を繰り返し、一部に熱狂的な信者を作りつつ人界でも最大の
そうして、聖都にまさか昔の同僚が思いもよらぬ形で集まろうとしている事は彼女には想像もしていなかったのであるが。
勇者歴15年(春):元死霊王(現マジカル★デスウィッチ)、聖都へと向かう。
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