第59話 勇者、国王に願い出る
謁見の間、その玉座に座る小国とはいえ一国を代表する存在に魔法使いと剣士は緊張から息を殺して片手をついて跪き、魔族娘はその魔族の特徴である獣耳がバレぬようにフードを深々と被り、同様に跪いている。
勇者も礼儀として他に倣ってこそいるものの、その表情は緊張からは程遠いのほほんとしたものだった。
ちなみに暗黒騎士と女神は関わると面倒な事になりそうなので別室に待機している。
「よい、面を上げよ」
その言葉を合図として勇者一行は一斉に顔を上げる。
玉座につく王の姿は威厳もあるが、どこか好々爺然とした伸びた髭を貯えた老人といった印象で緊張していた剣士と魔法使いもその姿を見て少し肩の力が抜けたようだ。これも王としての才というものかもしれない。
「防衛用の砦を取り戻してくれた事、真に感謝する。
昨今の情勢からあのまま放置する訳も行かず、しかも国の誇る腕利きの者達すら帰還していなかった事は不甲斐なさの至りである。
その為、今回の件について恩賞を与えたいのだが、希望はあるか?」
褒美を与えるという言葉は本当ではあるが、同時に勇者一行を測る物差しでもある。ここでどのような望みを述べるのか、それで勇者達の人となりを測ろうというのだ。
「では僭越ながら王に私の希望を述べさせて頂きます。
友であるこの魔法使いはこの国のお取り潰しとなった伯爵家所縁の者。
そのお取り潰しとなった経緯を再調査して頂きたく」
勇者は普段のおちゃらけた態度からは想像出来ないほどにハッキリとした口調で王を正面に見据え、自身の大事な友である魔法使いの事を優先した。
「…勇者ちゃん」
なにがしかの金銭や道具の援助を頼む事も出来たのに、本来は自分で解決しようとしていた事を手助けしてくれた勇者に魔法使いは溢れる涙が止まらなかった。
「そうか…おぬしはあの伯爵家の者か…確かにあの事件には妙な点も多かった。
うむ、我が名に誓って再度調べ直させる事を誓おう」
「感謝いたします、王よ」
「うむうむ、だが、それだけでいいのか? それでは貴殿達には名誉以外の見返りはなかろう?」
「そうですね…ならば」
そうして謁見が終わり、勇者達は広間から出てくる。
「あ~、肩こったぁ~」
うーんと伸びをしつつ、勇者がいつもの調子に戻る。
「あぁ、ほんとにな。 堅苦しい場ってのはいつも苦手だぜ」
剣術大会などの表彰で経験こそあれ、こういう場が苦手な剣士も肩を回している。
「そんなものか? 私はまぁ慣れてるから平気だが」
元々魔王の娘である魔族娘だけは最初から緊張もしていなかったので慣れた様子で二人を眺めている。
「あ、あの、勇者ちゃん!」
俯いた表情で最後尾を歩いていた魔法使いが不意に声を上げる。
「わっ、びっくりした? 何、妹ちゃん?」
「あ、その…ありがとうございますわ、王にあのような頼み事をして頂き」
「ん、そんなの当然だよ。 妹ちゃんがいっつも貴族の勉強してるのも知ってるし」
既に平民の身でありながら、いつか家の誇りを取り戻した時の為に教養を学び続けていた事を、その他人に本来は嘲笑われても仕方ないような努力を一番傍にいた身なので理解している。
「アッ、でも貴族に戻っちゃう事になれば一緒に冒険は出来なくなるのかな?
それはいやだなぁ」
伯爵というそれなりの身分に戻る事があれば、平民である自分とこのように接する機会もなくなるのだろうと想像してシュンとなる勇者。
「フッ、馬鹿な事を仰らないで、勿論最後までご一緒致しますわ!
貴族の務めとして!」
それに対して、目に涙を貯えながら魔法使いは胸を張り、
「うん!」
勇者もそれに満面の笑顔で答えた。
勇者歴15年(春):勇者、伯爵家お取り潰しの再調査を国王に願い出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます