第57話 対決、謎の獣人部隊
「えぇぇ~…」
折角覚悟を決めていたのに、目の前で繰り広げられているあまりにも滑稽な光景に一気にやる気をなくす剣士。
「むぅ、あ奴らはまさか!」
「知っているのか魔族!」
目の前の小さな獣人達を見て驚いた様子の暗黒騎士と、それについて尋ねる女神。
「うむっ、あ奴らはファンシー小隊。よもやまだ現存していたとは!」
「ウワッ、一気に駄目な気配が漂い出した」
「昔、魔王軍にて伝令役の部隊を創設しようとした際、身体能力などを考慮してコボルトをベースに隊を組もうとしたが、その際に『伝令役なら別に戦闘能力とかはいらないでしょ? むさいコボルトとか嫌だし、ちょっと品種改良しましょう?』という某四天王の発案で産み出された部隊だ。
主に女子陣からの受けが良かったが、あまりにも戦闘面を考慮していなかった為に試案だけで終わったと聞いていたが、まさか試作部隊が残っていたか!」
「凄く知ってる人の気配を感じるんですけど、今の話!」
プライバシーに配慮してイニシャルだけ表示のM氏「私が作りました」。
「むむっ、またきたなあらたなにんげん!」
「われら、かぜのはーぴぃさまから『このへんですきにしてていいからもうかえってこなくていいよ』とこのちをあずけられたほまれあるぶたい!」
「まおうさまのためににんげんはここでたおしてやる!」
勇者達に気づいた小さな獣人達が一斉にこちらに振り替える。
「ぼくはコボルトコーギー!」
「おいらはコボルトポメラニアン!」
「コボルトチワワ!」
つぶらな瞳の小型犬型獣人が一斉に威嚇のポーズをとる(参照:オオアリクイ)
「は、はわわわわわわ! あんよがあんよがちっちゃいですわ!」
その姿に両手で口を押えて身もだえする魔法使い(犬派)。
「チッ、しっかりしなさいよ、こいつらもこれでも魔族なのよ?」
同じく魔族である魔族娘はそんな魔法使いを叱咤しつつ、前へと進みだすが、
「馬鹿者、油断するな! こ奴らはコボルトだけではないぞ!」
その暗黒騎士の警告と同時に天井から飛来してくる影。
「くっ、新手!?」
迫る影から飛びのいて身を躱した魔族娘の前に、襲撃者は姿を現す。
「はずしたか、でもつぎはにがさないぞ、このウェアマンチカンが!」
四肢がやたら短い猫型獣人が魔族娘を威嚇する。
「おまえだけにはいいかっこうをさせないぞ、おれはウェアエキゾチック!」
「つづいてウェアスコティッシュ!」
更に立て続けに現れるモコモコの毛玉達。
「はわわわわわわ!」
その姿に魔法使いと全く同じリアクションを取る魔族娘(猫派)。
「う~ん、すでに2人が無力化されてしまった。こいつは参った」
動物は好きだけど、線引きが明確な勇者は無反応だが、
二人の反応に攻撃の手は止める。
「いや、もうあの人には帰ったら文句言うとして…こいつらがダメなら俺がやるしかねぇかぁ…」
仕方ないといった感じで剣士が剣を抜こうとするが、
「おい、何剣抜こうとしてやがる!」
「危ないじゃない、ケガさせるき!?」
「ふざけんな、
そんな剣士を一斉に罵倒する冒険者達。
「えぇ~…やりずら…」
助けに来た筈の相手に罵倒されて剣を抜こうとしていた手も思わず止まる。
「そう、こ奴らの怖さは…凄く倒しずらいという事!」
「何真顔で言ってやがるんです魔族」
猫獣人によじ登られつつ、暗黒騎士は部隊の恐ろしさを語り、女神はそれに呆れている。
「そして…」
「まだ何かあるんですか魔族?」
「凄く頑張り屋さんだ!」
「あぁ、うん…」
この時点で魔法使いと魔族娘も完全に堕ちており、必死に叩いてくる肉球に包まれて意識だけ天国へと旅立っている。
「さて困ったぞ? この子達を倒しちゃったら二人が悲しむし、かといって倒さないと王都へも入れないし」
かつてない強敵の出現に頭を悩ませる勇者。
「…いやぁ、もう放っておいてもいいんじゃないかな?」
もはや座り込んで傍にいたコボルトの腹を撫でている諦めの表情の剣士。
「……あ、そうだ!」
何かを閃いて道具袋を漁り出す勇者。
それと同時に何かに気づいて猫獣人達が勇者の傍に群がり出す。
「まーたーたーびー!」
勇者の取り出したそれに目の色を変えて飛びつこうとする猫型獣人達。
「欲しい?」
勇者の質問に猫獣人達は一斉に「欲しい!」と返す。
「じゃあ、私の配下となるのだ!」
勇者は買収を試みた。
「はい!」
猫獣人達は意志が弱いのであっさりと懐柔された。
勇者のばら撒いたまたたびに彼らは酔いしれている。
「くっ、うぇあきゃっとたちをてなづけたとしてもおれたちはくっしないぞ!」
「お手」
「わん!」
差し出した手につい手を乗せてしまうコボルト。
「おかわり」
「わん!」
「ふせ」
「わん!」
「ちんちん」
「それはちょっとはずかしいのだ///」
立て続け様に繰り出される勇者の命令にコボルト達は段々と一糸乱れぬ統率を繰り広げていく。
「お前たちのボスは誰だ!」
「さー、ぼすはあなたです、いえっさー!」
気が付けば勇者を完全に主と認識して命令に答えている本能に抗えない犬達。
「……いや、まぁ、解決したならそれでいいのか、な?」
その光景を眺めながら剣士は一人ぼやいていた。
勇者歴15年(春):勇者、占拠された砦を開放する。
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