第55話 精霊姫、海域を調査する。

魔王軍四天王水の精霊姫。

彼女は親の七光り扱いされている自分を理解している為、

積極的に自らの仕事に取り組んでいた。

それが彼女なりの馬鹿にする周囲への身返し方なのである。


「さて、今回はこの海域に配置されていた筈のクラーケンが消えた事ですか」


彼女はとある海域で、まだ四天王だった頃の父親である精霊王がこの海域を守護させる為に配置していた筈の魔物が数年前に消えた理由の調査に赴いていた。

この程度の案件は本来は末端が適当に処理しているのだが、兎にも角にも実績の欲しい彼女はこのような木っ端案件にも手を伸ばしていたのである。


「見たところ、周辺に強靭な海軍を保有する国もなし。あるのは小さな漁村位ですか? まさか、ただの漁師がクラーケンを始末した? それはあり得ませんね」


クラーケンといえば、軍艦1隻を簡単に沈める事すらある海の怪物だ、

稀に退治される事はあれど、それにも多大な戦力が必要になる。


「仮にそのような者が居た場合、侮る事は出来ませんが…いえ、まずはクラーケンの代役を用意しておきますか」


万に一つの可能性を考慮しつつも、先ずは自分の仕事を優先する。

クラーケンの代わりにこの海域を守護させる魔物が必要であるのだから。


「お出でなさい、シーサーペント!」


自身の得意とする召喚魔法を駆使し、全長100mを越える巨大な海蛇を召喚する。


「さぁ、貴方の役目はこの海域を荒らす人を」


召喚した海蛇に命令を下そうとした時、目の前の海が


「くちく…えっ?」


両断された海が時間差で荒波を引き起こしながら戻っていくさなか、哀れにも召喚されたばかりの海蛇もそれに巻き込まれて真っ二つに分断されている。


「シ、シーサーペンt」


自身の召喚獣の唐突な不条理な死に未だ理解が追い付かずにいたが、海の向こうから迫る海を割る謎の黒い光波がこちらに無数に迫っている事に気づく。


「え、なになになになに!? 何なのいやぁぁぁ!?」


慌ててその場を離脱する精霊姫。

直後、分断されたばかりの海蛇を細切れにしていく謎の黒い光波。


「な、何なの今のは?」


ギリギリで離脱の間に会った精霊姫は目の前で起きた怪現象に顔を青くさせる。


「くっ、何が起きたのか分かりませんが今のがクラーケン消滅と関係がありそうなのは間違いないですね…暫くはこの海域には誰も近寄らせない事にしましょう…」


精霊姫には与り知らぬ事だが、この日、海の向こうの海岸で魔剣を手に入れたばかりでテンションの上がりまくった勇者が暗黒剣を乱れ撃ちしていたのだった。


勇者歴14年(冬):勇者、精霊姫を(知らないうちに)撃退する。

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