第54話 王都騒乱、魔王軍の影

4日ほどの道のりで王都の前まで到着した勇者一行。

しかし、王都間近といった所で目の前に人や馬車の行列が渋滞を起こしているのが見える。


「何だこりゃ? この前通った時はこんな人の列は出来てなかったんだけどな?」


勇者一行で唯一、最近まで村の外に出ていた経験のある剣士が首を傾げる。


「まぁ、聞いてみるのが早かろう。 もし、そこの御仁」

「うわ、何だあんた…って、騎士様か? ここらじゃ見ない鎧だけど」

「うむ、まぁそんなものだ。 この行列はいったい何なのだ?」


目の前の商人に声をかけ、しれっと身分詐称する暗黒騎士。

騎士である事には違いないが。


「ん? あんた此処の騎士じゃないのかい? まぁいいか、何でも近くの砦が魔族の連中に乗っ取られたらしいぜ。その所為で城門を封鎖してやがるんだよ」

「へー、それってどの辺?」


話を聞いていた勇者が馬車から身を乗り出して商人へと尋ねる。


「んぉ? 何でもこっから東の方に行った先の砦らしいが、いくら騎士と一緒だからって近寄っちゃ駄目だぜ嬢ちゃん。 この国でもそれなりの腕利き連中が奪還しに行ったっきり戻ってこないか、ボロボロになって帰って来たらしいからな」

「ほうほう」


勇者はその話を興味深そうに目を輝かせて聞いている。


「あーあー、もうそっちの事しか考えてない顔ですわね、これ」


こういう時の勇者の行動を把握している魔法使いが溜息をつく。


「どちらにせよ、このままでは王都には入れるのはいつになるか分かりません。これも善行だと思い、解決するのも貴女方の使命ですよ」


女神が偉そうに勇者一行へと命じる。


「まぁ、この女神の言う事も尺ではあるが一理ある。それにこれも経験の一つだ。

 砦攻めというのもお主らへの経験として悪くない」


暗黒騎士は手綱を手繰り、馬車の進路を変える。


「お、おい、あんたら今の話聞いてたのかよ!? 死にに行く気か!?」

「心配ありがとー、これでもあたし結構強いからだいじょーぶー!」


勇者一行を引き留めようとする商人に勇者は笑顔で手を振り、商人は呆れ半分諦め半分といった様子で一行を見送った。

彼の中では無謀を勇敢とはき違えた冒険者が勝手に死地に赴いていくように見えているのであろう。


「魔族の軍隊か~、どんな人が出てくるのかな?」

「遊びに行くんじゃないのですから、もう少し気を引き締めてくださいまし…」

「まぁ、勇者ちゃんは今くらいの調子でいいと思うぜ、下手に緊張するよりな」

「うむ、私もスタイルを変えてから初の実戦だからな、楽しみだぞ!」


しかし、死地へと赴くようには思えぬ程に馬車の中の4人は気楽に構えている。

決して慢心している訳でもなく、これらが彼らの強みなのだろう。


「しかし、魔族という事は魔王軍だろうが…このような場所に来る者とは一体?」


馬車を操る暗黒騎士だけが、目的の分からぬ敵に警戒を深めていた。


勇者歴15年(春):勇者一行、魔族の占拠した砦に向かう。

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