第53話 王都への道のり、魔法使い自分の過去と向き合う

夕飯の献立を楽しみにしつつ、勇者一行は村を出る。

勇者、剣士、魔法使い、魔族娘の4人組は村を出たのだが、すぐに背後を振り返る。


「おじさま? 何してるの?」


すぐ後ろには魔導馬に跨り、出荷用の大きめの馬車を引く暗黒騎士が居る。


「い、いや、我は偶々王都までの行商を頼まれただけだが?」


口笛を吹きつつ、平然を装う暗黒騎士。 下手糞か。


「でも、売却用のお魚積んでないよね?」

「うぐっ!」


馬車の中身を覗き込まれて、返答に窮する。


「の…」

「の?」

「乗って、行くか?」


馬車を指さす暗黒騎士。

それを聞いて、にへらと笑った勇者は、


「うん!」


と、快活に返事をした。


全然忍んでなかったので、尾行(?)があっさりとバレた暗黒騎士が引く馬車に4人は乗り込む。


「も~、おじさまも一緒に来たいなら素直にそういえばいいのに」

「ちょ、勇者ちゃん、大人にはこういう時に面倒なプライドがあるのですわ!

 察してあげてくださいまし!」

「お前ら、その程度にしてやってくれ…」


背後の会話に暗黒騎士の背がどんどん丸まっていくが、剣士以外はそれを汲み取ってはくれない、哀れ。


「その通りですよモグモグ…あまり魔族を信用するものではないですがムグッ」


と、用意されていた弁当を勝手に食っている女神。


「って、うぉわ!? いつの間に!」


自然に会話に混じられていたので一瞬気づかなかったが、いつの間にか乗り込んでいた女神に驚いて剣士は身を怯ませる。


「フフフ…甘いですね、これが女神の力です、もっと驚きなさい」

「いや、そやつそこの箱の中に隠れてただけだぞ?」

「ムキ―ッ! そういうネタバレは控えなさい魔族!」


馬車に積まれていた少し大きめの箱の蓋が空いている。


「あぁ、そういう事でございますの」


白けた目で女神を見ている魔法使い。


「アッ、不敬ですよ! そういうの天罰が下りますよ!」

「さっきまで箱被ってた奴が言っても説得力ねぇのだわ」


呆れた様子で箱を拾って回している魔族娘。


「あー、うん、そんな人?でも一応神様なんだからなお前ら…

 一応はそれなりに扱ってやろうな?」

「…下僕」(キュン)

「いや、ときめいて言う台詞じゃないからなそれ!?」


そんな風に馬車の中で喧々囂々と騒ぎ立てているのを後目に、魔法使いは馬車の先頭へと移って、頬に風を浴びる。


「不安か?」


そんな魔法使いに魔導馬を手繰る暗黒騎士が声をかける。


「王都へ行く事が不安じゃないと言えば嘘になりますわ。あれから10年以上の月日が経ちましたけれど、その間の家の事を私は何も知りませんもの」


風で揺れる髪をかきあげながら、愁いを帯びた目で魔法使いは呟く。


「だろうな、だが、王都へ行くならば避けては通れぬぞ?」

「私のお師様は二人とも心配性ですのね」

「ムゥ…」


魔女にも似たような反応をされたのだろう事が窺える魔法使いの返答に暗黒騎士も素直に照れた様子を見せる。


「どんな真実でも、受け入れてみせますわ」


勇者歴15年(春):勇者一行(With暗黒騎士&女神)、王都へと向かう。

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