第49話 勇者、伝説の武具を授かる

「それで、この方が本当に女神様なんですか?」


勇者が夕過ぎに実家に帰ると、家で待ち構えていた珍客を指で指しながら暗黒騎士や母親に確認を取る。


「人?の事を指で指しちゃいけませんよ。 えぇ、私と騎士様が一応この方が降りてくるのを見てましたからそうだと思いますけど」


ちょっと実際どうなんだろうなっていう顔の夫人。

一般家庭に直接降りるもんなのだろうか?という疑問が頭を占めている。


「というよりも、女神の託宣は本来は大教会の仕事の筈ですの。

 でも、そんな話はここ4年くらい聞いてませんの」


他よりは貴族としての(自主)教育でその辺の教養に詳しい貴族妹が補足する。


「心配になるのは分かりますよ、ですがこれには理由があるのです」


それまでは黙って成り行きを見守っていた女神もここで口を開く。


「理由であるか?」

「えぇ、原因は不明ですが、今は大教会への降臨が出来なくなっていたのです。

 それに気づいた私は降臨先を直接勇者の元へ変更して降りた筈なのですが…」


その結果が卓上降臨らしい。


「そういえば、仕入れ先の商会から大教会のある聖都が封鎖されてるって聞いたわ。 おかげで聖水の値段が跳ね上がってるって」


話を聞いていた魔女も薬の素材を納入している仕入れ業者の噂を思い出して、女神の話に相槌を打つ。


「こほん…では改めまして勇者よ! この世界に危機が迫っています、ま」

「あぁ、精霊王の奴が動くのか」

「話を先読みしないでください、この魔族!」


ビシッと決めようとした所を空気を読まない暗黒騎士に邪魔されてキレる女神。

なお、この時に勇者の表情が真顔になっている事には気づいていない。


「うん!! まぁ、はい、魔界の魔族の侵略が始まったようです、先だっての聖都の異変もまず間違いなく何らかの魔王の策謀でしょう。

ですが、貴女は光に選ばれし勇者です、その力で迫る闇を打ち払ってください!」


ここで女神はその眼で今の勇者の素質を見極めようとする。


勇者(♀) 14歳

属性:闇


「ん?」


目を擦ってもう一度、勇者の素質を確認する女神。


勇者(♀) 14歳

属性:闇


「染まってるぅ~~~~!? え、闇堕ち!? 早すぎない!?」

「あ、多分、素です、それ」


動揺する女神に対して、勇者のアレな部分を把握している暗黒騎士の無慈悲な返答。


「くっ、私が将来闇の女神とか言われそうな気がするけれど…仕方ありません、今の勇者の属性は生まれ育った環境が決めるもの…私は悪くない…」


そんな勇者の裏設定を呟く女神に、暗黒剣仕込んだ身に覚えがある暗黒騎士はしらを切り通す事を決める。


「まぁ、いいでしょう! 貴女が勇者である事は女神として保証します!

そして私は太っ腹な女神なのでヒノキの棒と銅貨数枚だけ渡して旅に出させるような暴挙はしませんよ! さぁ、これを受け取ってください、勇者よ!」


女神が手を翳すと、光の中から一本の剣と一着の鎧一式が出現する。


「これは私が3か月分の信仰をドブに…いえ、人々の祈りを形にして産み出した、いわば人類の希望そのものです。どうぞ受け取ってください」


黙ってそれを見ている勇者に慈愛の笑みを浮かべながら女神は告げる。

そのまま背後へと振り返ると、


「ところでそこの魔族! 貴方、一体何を企んでいるのです!」

「えっ、我?」


勇者達に背を向けている女神は気づいていないが、その背後で何やら勇者が貴族妹達と女神の装備を指さしながら耳打ちしている。


「アッ、これ悪い予感が」

「悪い? やはり何か悪だくみしているのですね!」


何やら貴族妹が装備の周りに魔法陣を描きつつ、勇者達が袋の中から魔石や何かをその魔方陣に配置していく。


「いや、そうではなく」

「フフッ、流石魔族ですね、実に浅はか! この私の目をそうやって逃れようとは」


準備を終えたのか、勇者や凄く嫌そうな表情の貴族妹、魔族娘は黒いローブを身に纏って頭に牛の頭蓋骨を被っている、


「うわぁ…あの、背後背後」

「背後がどうしたっていうんですか! 闇討ちですか! 闇討ちですね!」


興奮している女神の後ろで明かにヤバ気な儀式を始める勇者達。

禍々しい気配が魔法陣の内側の女神の装備に満ち足りていく。


「…あ~」

「えっ、何ですかこの闇の波動は!? え、後ろ?」


そこでやっと背後を振り返る女神。

しかし、そのタイミングで女神の装備に黒い瘴気が吸い込まれていく。


なんと、めがみのそうびはのろわれてしまった!


「ほ、ほぎゃぁぁぁ!? 私の信仰3か月分!?」


光溢れる純白の聖剣が赤黒い刀身の魔剣に変貌しており、ローブを脱いだ勇者はそれを拾い上げる。


「あ、いけません!? 勇者よ、それは呪われて」


なんと、ゆうしゃはのろわれてしまった!

しかし、ゆうしゃはのろいをはじきかえした!


「これでおじさまとお揃いだね!」


この数年で完全呪い耐性を獲得していた勇者が嬉しそうに魔剣を振り回している。

一方、女神は白目を剥いて泡を吹いていた。


勇者歴14年(冬):勇者、女神の装備を得る(そして即呪う)。

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