第48話 女神、降臨

肌寒い風が吹き始めた季節。

最近、この小国の王都の方では何やら騒動があったようで慌ただしくなっているが、この辺境の小さな村ではあまり関係のない事である。


「そろそろイカが旬の季節であるな」

「そうですねぇ、王都の方の人はあまり食べないらしいですけど…美味しいのに」


そんな暢気な会話をしながら夫人とお茶を飲んでいる暗黒騎士。

なお、言ってる本人も初めて見た時は「え、この村って邪神の類も食うの?」って食わず嫌いしていたりする。


その日はいつもの鍛錬も休みで、勇者を女の子らしく遊ばせる日(このままだと後の伝説の悪魔とかが産まれそうな気がした為)の為、

彼女も貴族妹や剣士、暗黒騎士に弟子入りしたので無事仲間認定された魔族娘と一緒に外に遊びに出ている。

ちなみに今日は「将来の為の素材集め」と称して出かけて行ってしまった。

剣士達の目が黒く濁っていたのはきっと気の所為だろう。


「思えばこうして二人きりな時間も久しぶりですねぇ」


最近は年齢が一緒の義理の扶養家族が一人増えてるので誰かしらが家に残っている事が多かった。


「そうであるな、そろそろあの娘も成人を迎える頃か」

「あと1年と少しでそうなりますね」


暗黒騎士は湯飲みを置き、その後はどうするのかと尋ねようとして喉まで出掛かったその言葉を飲み込む。


「その後は、どこか働き手を探している家にでも下女として出ましょうか」

「ならば…」


夫人は考えるように片手を頬に当て、困ったような表情でそんな風に答える。

暗黒騎士が身を乗り出しかけた、その時である。


見つめ合う二人の間に一枚の羽根が落ちた。


「えっ?」

「……」


室内に一陣の光が差し、卓上で向かい合う二人の間でそれは円柱状に広がっていく。

そして、その光の先からゆっくりと女性が舞い降りながらその姿を顕現する。


『勇者よ、世界に危機が迫っています』


その場の二人の頭に直接響き渡る優しい声色。

背中の翼を広げ、神々しい光を放つ女神がその場に降臨する。


一般家庭の卓上に。


「あれ? ここ、勇者のおうちで会ってますよね?」


演出を終えて周囲を見回した女神が目を開けて周りを見れば、あまりにも小規模すぎる奇跡を魅せた女神にそれでも驚いてくれている夫人と、完全に機を失ってバツの悪そうな表情の暗黒騎士。


「取り敢えず、降りろ」

「アッハイ、すいません」


自分が卓上に立っている事に気づいた女神は下衣を手で押さえつつ卓から降りた。


勇者歴14年(冬):女神が(勇者の実家に)降臨する。

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