第47話 魔族娘の真の才能

暗黒騎士と魔女は頭を抱えていた。

あれから二月ほどかけて心の病も改善し、社会復帰する事が出来た魔族娘から仇討の為の特訓を頼まれて二人でそれぞれ剣と魔法の腕を確かめてみたのだが。


「お主はどうだった?」

「筋はいいんだけど、う~ん…」


二人を悩ませる問題。 それは魔族娘の素質に関してだ。

剣の腕は悪い訳ではないが悪くないというだけ、せいぜい二流止まり。

魔術の方もそこそこには熟せるが高位術式を自在に操れるほどではなく、

言ってしまえば、今の彼女の才能を表わすならば、


「「器用貧乏」」


そういって指をお互いに指しあう二人。

同じ様に何でも器用に熟せる勇者とは違い、彼女のそれは完全に劣化版。


「今のまま鍛えても、精々魔王軍の小官程度の腕にしか成れぬだろうな」


旧魔王軍残党もある程度はそれを理解しているから、あまり前線に出る必要の無い神輿として彼女を担いでいたのだろう。

誤算だったのは彼女自身が予想以上に復讐心に燃え、持ち前の血気盛んな性格で前に出たがりだった事だろう。


「このまま鍛えても、無駄に終わるでしょうねぇ」


だが、本来の戦場はそう甘くない。 あの程度の腕前の者なぞ魔族にはゴロゴロいるし、仮にも同僚だった精霊王の力を把握している二人は魔族娘に万に一つも勝ち目がない事をこの時点で見極めていた。


「諦めるのが一番本人の為ではあるが、それはあの娘の誇りが許さぬだろうしな」


勇者と組手方式で木剣を撃ち合う魔族娘を眺めながら二人は溜息をつく。

流石にこの二人とて、今は亡き上司であり友人の愛娘が何の勝算もない死地に挑もうとしているのをこのまま見過ごすのは寝覚めが悪い。


その時である、木剣を勇者に打ち込んでいた魔族娘は汗で手を滑らし、木剣を取り落としてしまう。

その隙を見逃さずに勇者少女が一本を取りに行こうと動くが、咄嗟の判断で魔族娘はその場から後方宙返りを決める。

しかし、それは本来なら距離を取る為に回避行動に過ぎないのであるが、彼女はその動きの中で迫る勇者に対して牽制の蹴撃を織り交ぜる事で追撃も防いだのである。

その機敏な身のこなしに暗黒騎士も流石に舌を巻いたし、魔女も驚きを隠せない。

そして、二人は自分たちの勘違いに気づいたのである。



「で、俺に知らせを寄こして来たって訳か」


そうして、二人が呼び寄せたのが竜王である。

旧魔王軍内では本来の竜の姿での息吹による圧倒的な広範囲火力での殲滅戦が取り上げられていた彼だが、それ以外にも自身の爪や牙、尾を用いた徒手空拳は人型時でも旧四天王で最も秀でていた事を元同僚である彼らだけが知っていたのである。

魔族娘は確かに剣も魔法の腕も二流だが、体術もそうだとは限らなかった。


「まぁ、俺も仕事が空いてる時にあの嬢ちゃんに喧嘩教えるのはいいんだけどよ」


竜王は暗黒騎士達に向き直り、


「おらぁ、あの娘を見つけたら連絡しろって言ったよな?」


笑顔ではあるが、こめかみには青筋を立てて明らかに怒っている様子の竜王。


「「ごめんなさい」」


ここでも報連相をど忘れしていた暗黒騎士と魔女は素直に謝るのだった。


勇者歴14年(秋):魔族娘、体術の才能を磨き始める。

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