第46話 暗黒騎士、魔族の真実を語る
「という訳で、これが全てに絶望した結果、
この世に誕生してしまった哀れな怪物の姿である」
「一生食っちゃ寝したい」
色々相談してはみたが、結論として正直に告白しようとなり、最早悲しきモンスターと化した虚無顔でだらりと床に寝そべっている魔族娘の姿を見せる暗黒騎士達。
「話だけ聞くとそういうのって物語の悪役の裏設定みたいに聞こえるよね」
「産まれたのはある意味社会の闇ですけれど」
勇者少女と貴族妹は哀れんでいるのか呆れているのかよく分からない反応を見せ、
その間も魔族娘は完全に溶け切って「甘いもの食べたい」等と呟き続けている。
「んで、どうするんです師匠? この娘、結局帰る場所ももうないって事でしょ?」
そんな様子を眺めつつ、剣士はこの後の事を考えて頭を掻いている。
本来は現地で引き取って貰ってバイバイしちまおうと目論んでいた暗黒騎士達にしてみても完全に想定外だったので扱いに困ってしまう。
誰が引き取るんだ、このニート志望?と。
「ん~? 取り敢えず、うちに来ます? 俺んちなら元々兄妹多いし今更一人増えたってどうってことはないと思いますから」
大家族の末の方の息子である剣士が取り敢えず手を上げるが、
「それはダメよ。男女が一つ屋根の下で同居何て間違いが起きない訳もなく…『俺、お前の事は義妹としか思えないから』って言ってた筈が気づいたら一夜の過ちからのドタバタで海辺の教会でHappy Wedding!子供は3人で、なんて展開はありふれているんだから!」
ここまでをワンブレスで早口で噛まずに捲し立てる魔女。
「え、いやだからうちには他にも兄弟が…」
「とにかくダメよ」
剣士がそんな魔女の剣幕に唖然としつつも訂正しようとして即却下される。
「うちもちょっと姉がまた家族が増えると申してますので、今は負担がちょっと」
「え、お主の姉はこれで7人目だよね?」
貴族妹も申し訳なさそうにしている。
それはそれで彼女の姉のハッスルっぷりに改めて怖くなる暗黒騎士。
旦那さんのアレは大丈夫なんだろうか?
そうなると視線が必然的に一か所に集まり、暗黒騎士はその重なる視線に取り乱す。
「い、いや、我は家長ではないのでそも一存で決める事なぞ出来ぬ!?」
必死に手を横に振る
「大丈夫です!」
其処に割って入ってくるのは勇者家の家長として話を聞いていた夫人である。
彼女は寝そべっている魔族娘へと歩み寄り、その傍に座って彼女に膝枕をしてあげながらその頭を優しく抱きしめる。
「一人は辛かったですよね、分かります。貴女が良ければうちで少しの間、羽を休めてもいいんですよ?」
「ママ…」
夫人の優しさに包まれてぼんくら共に傷つけられて、ささくれ立っていた心が癒されていく魔族娘。ママではない。
「ですが、夫人。その娘、今年で34ですぞ? あまり甘やかすのもどうかと…」
其処に飛び出す暗黒騎士の爆弾発言。
「我が最後に会った時はもう少し小さかったが、確か友にその娘の20の祝に招待されたのが直に見た最後だが、あれから14年以上は経過しているし有っていたか?」
記憶を思い出しながら指折り数えている暗黒騎士が魔女に確認する。
「私も最後に会ったのは彼女が25くらいの時だし…大体それくらいじゃない?
偶に魔王ちゃんに隠れてうちのホストクラブで親の小遣いで豪遊してたわよ?」
魔女の方も頷きつつ、割と碌でもない過去を暴露する。
「34…?」
と、膝枕している少女の年齢に驚く夫人(34)。 まさかの同い年。
一方、急に年齢と黒歴史を暴露された魔族娘は大量の脂汗をかいている。
「え、ちょっと待ってくださいまし? そもそも二人は何歳なんですの?」
「我は今年で確か200と少し、こ奴は確か二十回りほど下の後輩」
「永遠の17歳よ」
大した問題じゃないかのように自分の年齢を明かす暗黒騎士と華麗に鯖を読む魔女。
「へぇ~、魔族って長寿って聞いてたけど本当なんだね」
「うむ、代わりに肉体の成長も遅いがな」
勇者少女の質問に暗黒騎士も頷いて返す。
代わりに漂うのは微妙な空気。
「ま、まぁ、この娘、いえ、さん? でも見た目は下だし…
とにかく、彼女は暫くうちで面倒をみます!」
「ママッ!」
その空気を打ち破るように夫人が引き取り宣言をする事でなんとかその場は事なきを得るのだった。ママではない、同い年だ。
勇者歴14年(春):魔族娘、勇者の家に引き取られる。
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