第44話 魔族娘、現状を知る

「な、な、な…なんじゃこりゃあああぁ!?」


転移した先には魔族の気配も殆どなく、設営されていた筈のテントやら何やらまですっかり蛻の殻となってしまっていた。


「わぁ、更地」

「完膚なきまでに終わっちゃってるわねぇ」


目の前の光景に慄いている魔族娘と、暢気に目の前の景色を眺める大人二人。


「お、おぉ、もしや姫様ですか…!」


魔族娘が呆然としていると、彼らに向かって声をかけてくる年老いた魔族が一人。


「お、おぉ!! 貴様は我が父上に長年使えてきてくれた忠義に篤い者ではないか!

 そこのスットコドッコイ共2名とは違って、忠義に篤い!!

 一体、何があった! 精霊王の奴の仕業か!?」


忠義という部分を殊更強調しつつ、現れた魔族に問い詰める。


「強調してくるであるな」

「根に持つわねぇ、若い内からそうだと早く老けるわよ?」

「うっせぇわ!」


そして、そんな魔族娘にウザ絡みするスットコドッコイ共。


「もしや貴方方は暗黒騎士殿と淫魔女王殿!? 生きてらっしゃったのか…

 もう少し早ければ…しかし、今となっては最早…」


目を伏せる老人に、魔族娘が此処であった事を想像して体を震わせる。


「そんな、皆、やられてしまったのか…?」

「いえ、違います。 皆は生きております」


顔を上げた老人が悲劇をきっぱりと否定した為、魔族娘の顔に光が戻るが、


「皆、姫様という大義名分を失くしたので諦めて郷里に帰りました」

「へッ?」


口をあんぐりと開けて、言ってる意味が分からないと困惑する魔族娘。


「かくいう私も息子が老後の世話を見てくれるというので、最後に夢の跡としてここを見に来た次第で」

「え、でも、ほら、私こうして生きてる訳で、もっかい再起しようとか?」

「いや、もう孫が可愛いんでそういうの止めます」


懐から孫の似顔絵を取り出しつつ、目元が息子に似てるんですよとか軽く自慢した後、老人は満足したようにさっさと引き上げてしまった。


「忠義(笑)」

「孫に劣る忠義(笑)」


魔族娘の周りを固めて追い討ちをかける、スットコドッコイ共。

暫くはその煽りにも耐えていた魔族娘だが、顔を真っ赤にして震え出すと、


「うわぁああああぁぁぁぁん!!」


号泣してしまった。


「い、いかん、やり過ぎたのである!? ど、どうする魔女!?」

「え、ちょ、冗談のつもりだったから、どうしましょう!?」


ここにきて焦り出すスットコドッコイ共、最初からやるな。

号泣する魔族娘の傍でオロオロする元魔王軍幹部2名はそのまま暫く魔族娘が落ち着くまでオロオロしていた。 役立たずか。


「もういい、もう全部やだ」


泣き止んだものの、地面に体育座りして延々と地面にのの字を書き続けている魔族娘に暗黒騎士達は困り果てる。


「どうする? 置いて帰るか?」

「それバレたら、絶縁されちゃうわよ私達」

「全部聞こえてんだけど!?」


最低のヒソヒソ話をしている暗黒騎士達に魔族娘は立ち上がって掴みかかる!


「もうあったまきた、こうなったらこっちだって好きにやってやるわよ!

 何が魔王の娘だ! 最初からただの神輿じゃないのよ畜生!

 あいつらアタシが好きでのじゃロリ口調やってるとでも思ってたのかよ!」

「お、おぅ、イメージは大切であるからな」


掴みかかられている方の暗黒騎士も流石に同情する、色々気苦労絶えなかったのであろうと(その気苦労の一つ)。


「養え!」

「ハッ?」


唐突な一言に暗黒騎士も困惑する。


「この超絶美少女でエリートで由緒正しい血統のアタシを養えよ~、もう日がな一日中ベッドでダラダラして過ごすの~」

「いけない、ショックで子供返りしてるわ!?」


粘着生物の如く暗黒騎士に絡まりながら、ひたすら「養え」と連呼している魔族娘。


「……どうしようもなし、一旦戻るか」

「…えぇ、でもなんて説明しましょうかコレ?」


駄々っ子モンスターと化している魔族娘から転移石を取り上げつつ、この後の事を皆になんて説明すればいいのか悩みつつ村へと転移するのであった。


勇者歴14年(春):旧魔王軍残党、滅びる(自主解散)。

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