第43話 暗黒騎士、魔族娘を魔界に帰す

暗黒騎士の謝罪と同時に微妙な空気が漂う。

こいつは何を言ってるのだろう?と魔族娘の頭の中に疑問が飛び交う。

帰るのを忘れていた? 父が騙まし討ちで亡くなるまでの5年も?

というか、よく考えたらその後も普通に帰ってきてないじゃないかこいつ。

流石に悪い冗談だと思って視線を何故か人に化けている淫魔女王に向けてみれば悲し気に首を振り、


「ガチよ」


と、残酷な真実を告げるのだった。


「はあぁぁぁ? お、おま、お前!? 一応将軍だったろ!?

 前から放浪癖あるとか言われてたのは聞いてたけど、それで普通5年も音信不通に なる!? 分かった、馬鹿なんだろ!!」


思わず魔王の娘としての威厳のある口調(と本人は思ってる)も投げ捨てて素の状態になってしまう魔族娘。


「面目次第もございません」


姿勢はそのままに謝罪を続ける暗黒騎士。


「え、ちょっと待って父上が騙まし討ち食らったのも、元々こいつが失踪してからの一連の流れからだよね? え、本当に? ドッキリとかじゃなく?」

「ハイ、申し訳ございません!」


魔女は視線を逸らし、暗黒騎士は記者会見に臨む政治家の如くなっている。


暫くは悪い冗談だと思って何度も二人を問いただし続けた結果、魔族娘もそれが事実だと受け入れる。

受け入れて、父親の復讐に燃えていた心もポッキリ折れた。

魔界を席巻していた父親である魔王率いる最強と言われた魔王軍の幹部連中が尽くポンコツ集団だとは思っていなかった。むしろ、ちょっと精霊王に同情した。

許す訳ではないけれど、復讐対象者への理解度がちょっと増えてしまった。


「1人は裏切るは、2人は失踪するわ、勝手に抜けて自営業始めるのが2人もいるわ!

 あんたら、ちょっと自由過ぎない!?」

「「反省してます」」


暗黒騎士と魔女は正座して元上司の娘に説教されている。


「これが悲しき社会の構図だね、妹ちゃん」

「いえ、むしろ当然の報いだと思いますの」

「二人はあんな風に無責任な事しちゃダメよ?」


途中から、夫人が淹れてくれたお茶を飲みつつ一連の流れを傍観していた少女二人と保護者1名は無責任な大人二人が責任を取らされる光景を呆れつつ眺めている。


「いや、あのさ、もう過ぎちゃったことは仕方ないし、師匠達二人も反省してるみたいだから、そろそろ大目に見てあげてくれない? いや、もうやらかしのレベルが酷すぎてあんま擁護出来ないのも事実だけど」


暗黒騎士達と魔族娘の間に入って剣士が何とか取りなそうとする。


「ギギギギ…くぅっ、まだまだ言いたい事は山ほどあるが、こ奴らの手を借りたいのもまた事実。おい、貴様らの罪全てを許す訳ではないがまずは我に手を貸すがいい!」


理想と現実の差に憤慨極まりない様子だった魔族娘も当初の目的を思い出して何とか怒りを鎮めていく。


「そうですよ、話を聞いている限り騎士様が悪いんですから、ちゃんとその子をおうちに送ってきてくださいね。 それまではご飯は抜きです」

「な、なんと…!?」


夫人からのお叱りの言葉でその場にがっくりと項垂れる。

明らかにさっきと態度違うので、こいつ、この期に及んで適当に聞き流していたな。


「魔女さんもっすよ、今日はこの後もおうちにはいかないっすからね」

「えぇ!?」


剣士に怒られて魔女も落胆している。以下同文。


そのまま魔族娘と大人二人を残して他の面子はその場を引き上げてしまう。

残された二人は正座から立ち上がり、無言で魔族娘へと近寄っていく。


「な、何っ? 私、悪くないぞっ」


二人の圧に後ずさりして、また素が出ている魔族娘。

そんな二人はがっしりと魔族娘の肩を掴むと、


「我の罪を許して貰おうとは思わぬ、だが、今は其方を無事に送り届けようぞ!

 迅速に! 特急で!」

「一人で怖かったわよね、すぐに戻りましょ! ハリーハリーハリー!」


死んだ目をしながら本心か分からぬ言葉を吐きつつ転移の準備を始める二人。

そんな二人の態度にちょっとちびりそうな魔族娘。

そんな二人を伴い魔族娘が暗黒騎士に借りた転移石で残党軍本部を強く意識する。

その意志に転移石が反応して、3人は光に包まれてその場から転移していく、

そうして、1年ぶりに帰り着いた残党軍本部は、


滅んでいた。


勇者歴14年(春):魔族娘、元幹部二人と共に魔界に戻る。

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