第42話 暗黒騎士、亡き友の遺児に会う
「誰?」
「えっ、魔女さんなんか怒ってる?」
「誰?」
「誰?」という単語を真顔で延々と壊れたテープレコーダーの如く繰り返す魔女に対して、彼女がなぜ怒っているのか理解出来ずに困惑する剣士。
最初は魔女の放つ、その謎の剣幕に剣士の隣でビビり散らかしていた魔族娘がハタと気づいて魔女の顔をまじまじと見つめ、
「おぉ、もしや貴様は」
「黙ってろ、この泥棒猫ッ!」
「ヒェ…」
声をかけようとしてガチギレされて獣耳を倒してシュンとしてしまった。
「い、いや、魔女さん? こいつは確かに強盗未遂はしたけど泥棒じゃないよ?
見た目猫っぽいのは確かにそうだけど」
違う、そこじゃない。
魔女のキレポイントに気づけずに見当違いの擁護をする剣士。
「うぅ、久しぶりに会った父上の元部下が怖いのじゃぁ…
なぜ、我キレられてるんじゃあ」
ビビり過ぎて、その場に縮こまって小動物の如く震えている魔族娘。
その表情はしわしわの電気鼠のようになっている。
惨状を見かねた暗黒騎士が昼ドラのような光景になっている3人に近寄り、
「ムッ、待て魔女よ。 その震えている娘に見覚えがあるような気がする」
暗黒騎士の制止に若干の心の余裕が戻った魔女も、泥棒猫もとい魔族娘の顔をしっかりと見つめ直す。
「えっ…ひょっとして姫ちゃん?」
さっきまで自分にキレまくっていた魔女に声をかけられて滅茶苦茶にキョドっている魔族娘の正体にやっと気づく。
「うぅ、そうだと言おうと思ってたのにぃ…」
やっと出会えた顔見知りにいきなりブチキレられたので、心がべっきべきにへし折れている魔族娘はその場にへたり込んでしまった。
「……って、言う事なんですよ」
剣士が魔族娘に出会ったいきさつを4人に説明する。
「ア、アラそうだったのね、私ったらてっきり、オホホホホ!
…人払いの呪いかけてる筈だからおかしいとは思ったのよね」
笑って誤魔化しつつ、後半は聞こえないようにぼそりと呟く魔女。
聞き逃していなかった勇者少女は改めて地雷踏んだ兄弟子に合掌。
「そうか、うむ、大変であったな、うん」
それはそれとしてぎこちない暗黒騎士。
14年ぶりに見た親友の子供に、「ドーモ、父親の失墜の主原因です」なんて言える訳もないのでバレなきゃこのまま一魔族で通そうと白を切る事を決める。
肝心な時に姑息。
「そなた、暗黒騎士よな? 父上から聞き及んでいた姿の通りだぞ」
が、駄目! これが現実、現実です!
そもそも目立つ外見してるので誤魔化しきれる訳がなかった。
「アッハイ、そうです」
年下の少女相手に若干敬語になる暗黒騎士。
気まず過ぎるので出来ればすぐにでも帰ってほしい。
「何故じゃ、何故、そなたは父を見捨てたのじゃ! 友だったのであろう!?」
ご尤もな怒りを暗黒騎士にぶつけてくる魔族娘。
その真剣な表情に暗黒騎士は覚悟を決めて口を開き、
「普通に帰るの忘れてました」
ペッコリ90度頭を下げた。
勇者歴14年(春):暗黒騎士、魔王の娘に謝罪する。
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