第41話 剣士の帰還(With変なの)

剣士からの帰還の報を受けてから一月ほど、彼からそろそろ着くという手紙があり、暗黒騎士達は村の入り口で戻ってくる彼を待ち構えていた。


「だが、一年程度しかまだ経っておらんのではないか?」

「一度出れば数年単位で帰らない自分と比較しちゃダメよ、騎士ちゃん。

 あと、彼。 割と筆まめだったからね? 何処かの誰かと違って」

「うぐっ!?」


暗黒騎士の言葉に白い目を向けている魔女。

心当たりしかないので暗黒騎士は胸を抑える。


「兄弟子、お外でどんだけ強くなったのかな~? 私もこの前の話してもいい?」

「…えっ、それはこの前のであるか?」


剣士には兄弟子としてなついていた勇者少女は嬉しそうにしているが、例のアレ、

【狂気、血煙に嗤ふ少女!!】。

多分、言われても信じないだろうなぁとこの前の件を回想しつつ、


「まぁ、良いのではないか…」

「うん!」


暗黒騎士は考える事は放棄して成り行きに任せる事にした。

だって、普段とのギャップがデカすぎるから。

実際、暗黒騎士だって消化しきれていないのである。お腹いっぱい。


「あら、アレは兄弟子でありませんこと?」


道の先を眺めていた貴族妹がこちらへと歩いてくる1年前よりも体格が引き締まっている剣士の姿を捉える。


「アッ、本当ね、剣士ちゃんだわ。 また随分と男前になって…」


ほんのりと頬を赤く染めていた魔女が剣士を見つめていたが、不意に口を噤む。


剣士の隣に、ぴょこぴょことくっついて歩く小柄な少女の姿を捉えたからだ。

偶に剣士にじゃれつくその少女に対して、剣士もそう悪感情を抱いていない様子が窺える。 むしろ、第三者から見れば普通に連れ合いの様に見える関係だ。


「寒ッ!? な、何であるか急に隣から冷気が!?」


急に肌寒くなった空気に驚いて暗黒騎士が横を向けば、顔を蒼褪めさせて震えている貴族妹と、その視線の先で真顔になって硬直している魔女の姿。

その魔女の周囲から凄まじいほどの魔力が冷気の渦となって渦巻いている。


「これは今日が兄弟子の命日かもしれないね」


その様子に勇者少女はこちらに向かってくる剣士に静かに手を合わせていた。




「ん? おぉ~い! 師匠~! みんな~!」


そんな4人の様子などは気づかずに、自分を待ってくれていた皆に対して破顔して手を振る剣士鈍感

師である暗黒騎士が随分と必死にこちらに手を振ってくれてるし、妹弟子達は何故か手を合わせてるわ、震えてるわでそんなに嬉しかったのだろうかと、内心、熱いものを感じる。


「……ん、何かどっかで見た事ある気がする奴らがおるな?」


剣士の伝手を頼りにここまで着いてきた(あわよくば篭絡して部下にしたかった)魔族娘は入り口に立つ大人二人に首を傾げる。

さて、何処で見た事があるのか?

魔族娘が一旦一人で立ち止まって思い出そうと首を捻っていると、


「あぁ、あの人達は」

「ウフフフフフ、随分と親しそうな仲じゃない」


剣士が魔族娘に振り返って、彼らの説明をしようとした矢先。

いつの間にか、その目の前に氷の微笑を張り付けた魔女がそこに居たのだった。


勇者歴14年(春):剣士が修行の旅から村に戻ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る