第36話 勇者、初の実戦

「ゴブリン?」

「うむ、ここより少し離れた地に巣がある」


今日はいつもの鍛錬ではなく、特別課題を出すという事で勇者少女と貴族妹は

暗黒騎士の駈る魔導馬が引く馬車の中でこれから行う課題についての説明を受けていた。


「目的は簡単だ、巣に入り、中のゴブリン共を一掃する」

「ちょちょちょっと待ってくださいまし!? それって要は実戦ですわよね!?」

「うむ、我も傍で引率するとはいえ怪我をする可能性は十分ある」


暗黒騎士の言葉に慌てるのは貴族妹で、急に実戦に駆り出されるとは流石に想像だにしていなかったのである。


「ゴブリンって強いのおじさま?」

「いや、弱い。ただし、群れを成し、悪知恵も利くので『初心者殺し』とも呼ばれる魔物だ」

「なるほど~、じゃあ油断は禁物だね!」


一方の勇者少女と言えば、まるでこれから散歩にでも行くかのような気楽さで暢気に構えている。

二人の対照的な様子に暗黒騎士もこれからの連携面での不安を感じるが、それを危惧していても実際にどうなるかは分からない。

こればかりは実際に経験させてみないと分からないのである。

考えを巡らせていると視界にこちらに向かって手を振る魔女の姿が映る。


「先行していた魔女が居るな、二人ともそろそろ降りるぞ」

「畏まりましたわ…」

「はぁ~い」


片や緊張した面持ちで、片や緊張の欠片もなく暗黒騎士に返事を返した。


「さて、この洞穴の中にはゴブリン種が凡そ30体ほど生息している」

「30…それを私達二人だけで倒さないといけませんの?」

「その通りだ、我が手を貸した時点で今回の課題は失敗とする」

「それは嫌だな~。妹ちゃん、私も頑張るから一緒に頑張ろ?」


貴族妹の横でシャドウボクシングしている勇者少女。

それをなんでこの子は出来る前提の思考なんだ?という目で見ている貴族妹。


「不安なのは分かるが、我の見立てではお主達が本来の実力を出せれば何の問題もない相手だ。今回、むしろ大事な事は魔物相手といえ命を奪うという事への理解だ」

「…自らの手で…殺すのですのね」


命を奪うという暗黒騎士の言葉に貴族妹は改めて表情を硬くする。


「勇者はまだしも、お主は今後、家の名誉回復を願うならば必ず誰かと相争わねばならぬ時が来る。その時に覚悟がなければ、先に滅びるのはお主だ。

 故に慣れよ。 ただし、軽んじるな」

「よく分かっておりますわ、自分で決めた道ですもの」


唇を噛む貴族妹の背後に魔女は周り、その頭の上から覆いかぶさるように彼女を抱きしめる。


「騎士ちゃんはキツイ事言うけど、危なくなったら逃げちゃっていいからね?

 私も一番弟子が可哀想な目に合うのは見たくないしね」


貴族妹の緊張を解き解すように優しい言葉をかける。


「ありがとうございます、お師様。 ですが、きちんとやり遂げて見せますわ」


二人の厳しくも優しい師の言葉に貴族妹も決意を固める。

一方、勇者少女は、


「あーーー!! いいな、あれ私にもやっておじさま!」

「え、我、鎧だから普通に痛いと思うぞ…?」


妙な対抗心を抱いていた。


勇者歴13年(冬):勇者と貴族妹、ゴブリンの巣に挑む。

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