第31話 剣士、修行先で奇妙な少女と出会う

村を出て1年。

各地を巡り、その地の道場や剣術大会に飛び入りで参加して自分の腕を試してみれば自分が想像していた以上にあっさりと各地で勝利を収めていってしまった。

その所為で修行中の身だというのに『放浪の二刀剣士』等と呼ばれ始めてしまい、剣士としてもほとほと困り果てる事態に陥ってしまった。

別に有名になりたい訳じゃない、いや、確かにガキの頃はそんな風になりたいとは思っていたが、成人した今となっては未だ遥か高みにいるあの人の背中に追いつきたい思いの方が強くなっている。


「へっ、俺も変わるもんだな」


その決して現状に自惚れず、ただ理想を目指す剣士の姿。

その姿は各地の女性の気も…惹かなかった。

全く、これっぽっちも、むしろ憐れみをもった目で女性には見られる。

この修行の旅で精神的にきついのはむしろそっちの方で、割と称賛の声で天狗にならないのもそのおかげだったりする。


「いい人だとは思うけど、お付き合いの対象にするなら0点」

「剣術王者でも、夜のアレで見るなら雑魚以下」

「二刀でも三刀でもいいけど、私的には短刀の飾り」


旅先のアバンチュールもへったくれもない罵詈雑言の嵐にLPは0である。

もしや呪われてるんだろうか?

その所為で旅の中で徐々に女性不審の芽を芽吹かせつつ、その日も旅をしていた。


「其処の貴様、停まりやがれDEATH!」


道のど真ん中に仁王立ちする不審人物。

故郷にいる妹分達と同じくらいの体格の少女と思しき者が道を塞いでいる。

思しき者といったのはその不審人物が顔全体を覆う覆面をしているからである。


「ここで会ったが1人目、命が惜しかったら食い物だけ置いていきやがれDEATH!」

「あ、1人目なんだ…それと食い物だけでいいのね…何か語尾の勢い強いな…」


思わず優しい目で見てしまう剣士。可哀想な子なんだろうな。


「お、おい…何だ貴様…憐れむような目で見るな…止めろ、止めろよぅ!」


剣士の生暖かい視線に気づいた覆面少女が怒り半分テンパり半分で剣を抜く。

その構えを見て、剣士も緩んでいた気を引き締める。


「おい、流石に剣を抜かれたらこっちも手を引けないぜ?

 分かってるんだろうな?」


一応は目の前の覆面少女に警告はする。間の抜けた格好をしているが、腕はそこそこあるのは構えから見て取れる。


「フン、やっと我の凄さに気づいて怖気出したか、だがもう遅いぞ!

 恨むならば我が丁度すきっ腹だった事を恨むのだな!」

「あ、そこは恨んでいいんだ」


飛び掛かってくる少女の剣を横合いから軽く手刀でいなし、体勢を崩した足を払って地面に倒すと腕を捻りあげる。

確かに腕はそこそこあるようだが、彼にしてみればその程度の相手だ。


「あだだだだだだ!」

「さて、そのけったいな覆面も取らせて貰うぜっと!」


身動きを取れなくした少女の頭から覆面を捥ぎ取る。

その下にあった顔は、


「…え、魔族!?」


獣耳をぴょこんと生やした赤髪の少女だった。


勇者歴13年:剣士、魔族の少女と出会う。

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