第32話 剣士と魔族娘

旅先で強盗紛いの事をしていた謎の魔族の少女を捕縛した剣士。

彼は念の為に簀巻きにしたその少女をその辺の木に繋げつつ、一人野営の準備をしていた。

本当だったらば、もう少し先にある村で宿に泊まろうと思っていたのだが、この魔族の少女を連れてでは村人がどう反応するか分からなかったからである。

一般的には魔族は人族にとって脅威の存在であると伝えられているのは知っている。

知ってはいるが、知り合いの魔族連中を見ている彼としてはこのまま見捨てるという判断も出来なかったのである。


「さてと、おいおい…あんまりそう睨まないでくれよ…」

「FUSYAAAAAAA!!」


こちらに牙を剥いて威嚇する少女に剣士は用意したお椀を差し出す。

中にはなみなみと注がれた彼自慢の野菜汁だ。料理の腕にはそれなりの自信がある。


「腹、減ってんだろ? 今その縄も解いてやるから落ち着け」


お椀を少女の前に起き、その言葉通りに縄を解いてやると少女は剣士を訝しみつつも、置かれたお椀と剣士を交互に見つめて判断に困ったような表情をしている。


「毒何て入ってねぇよ、ほれ?」


そう言って自分から率先して注いだ汁を目の前で啜る。

その姿を信用したのか、もしくは空腹に負けたのか少女も目の前のお椀を手に取り、口をつける。


「…美味い!」


驚いたように目を輝かせた後、凄い勢いで汁を掻きこみ始める。


「どんだけ腹減ってたんだよ…」


呆れつつも、少女のお椀が空になれば新たに注いでやる。

そうやって、5杯目のお替りの後にやっと少女も落ち着いたようだ。

念の為に余裕をもって作った筈の鍋はほぼ既に空である。


「うむ、馳走になった!」

「はいはい、お粗末さんです」


腹を膨らませた少女からお椀を受け取りつつ、自分も残っている汁を飲み干す。


「気に入ったぞ貴様! 我が配下となるがいい!」

「へー、今はそういう遊び流行ってんの?」


主従ごっことか、婚約破棄遊びとか。


「遊びちゃうわ! 我を何者だと思っている!」

「えっ…覆面を好んで使う不審者?」


ムキ―!っと地団駄を踏む魔族の少女。


「我は今は亡き先代魔王の娘、つまり次期魔王候補であるぞ!」

「へ―…そんな偉い人がどうしてこんな所で一人ぼっちに?」

「あ、信じてない!? 明らかに信じてない顔をしている!?」


勇者歴13年:剣士、自称魔王の娘に会う。

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