第25話 女神、託宣する
この世界にも一応女神という存在はいる。トラックとは無縁である。
彼女は人族からの信仰心を力として世界に奇跡を引き起こす事が出来るのだが、昨今の世情の荒れ具合で進行は薄れ、自身の力が衰えているのを感じていた。
そこで復権の為に思い付いたのが人族を全体を脅かす外敵への一致団結と人族への希望の象徴を生み出す事だった。
幸い、今の魔界は武闘派の魔族が魔界統一を成し遂げて今度は人界への侵攻を着々と進めているのはリサーチ済なので後はこっちもそのタイミングで人族に託宣を授けるだけだったのだが、魔界の方は急に統一が遅々として進まなくなるわ、魔王が討ち取られて代替わりするわで託宣を授けるタイミングがズレまくってしまったのだった。
「フフフ、でも今度こそ行けるわ、今の魔王が侵略肯定派で人族を毛嫌いしてるのも確実…これなら人界も大騒ぎ確実で私に救いを求めるってものよ!」
それでいいのか神。
「さて、まずは残ってる信仰ポイントで大教会の方に降臨しなきゃね」
女神は目の前の空間に映し出される文字を操作して演出やら何やらに配分を振っていく。
「なけなしのポイントを振ってるんだから。失敗は出来ないわよ、私、ファイト!」
気合を入れると自らが作り出した魔法陣へと乗り込む。
大教会、人族の女神信仰の最大拠点。
其処では常に敬虔なる信者達が女神への祈りを捧げていた。
その大聖堂に一陣の光が差し、何処からか光り輝く羽が降り注ぎ始める。
その日も祈りを捧げていた信者達は目の前の奇跡に息を呑み、感涙に咽び泣く。
光の中から顕現した4枚の羽根を持つ美しき女神に信者達は固唾を飲んで頭を下げ、ただただ祈るしか出来ない。
「人よ」
荘厳でいて慈愛に溢れた声が直接頭に響き渡る。
「今、この世界に脅威が迫りつつあります」
女神の言葉に信者達が驚愕の表情を浮かべ、騒めきだす。
「遠き魔界の地にて魔王が生まれ、人界へと手を伸ばそうとしています。
ですが、人にも希望は残されています。
ここより遥か遠き地にて魔を討つ使命を帯びた娘が育っています。
来るべき日にその娘は人を導いてくれる事でしょう」
おぉ!と感嘆の声を漏らす信者達に女神は「決まった!」と思いつつ、女神アイで勇者の今の居所を探り出していく。
「その魔王―」
言葉を繋げるより早く女神の視界に飛び込んできたのは、その勇者を指導しているあからさまに魔族な連中であった。
「なんかおる」
思わず素で呟いてしまった声は女神演出力でその場にいた信者達に広がっていってしまう。
「ナンカオル?」「魔王の名前か?」「女神さま?」
聞かれていた事にハッとする女神、しかし、もう遅い。
しかも集中力が途切れた事で奇跡の維持が困難になってしまった。
「いけない、維持が! なんであんな」
取り乱す女神にざわつく信者達の目の前でその姿は掻き消えてしまう。
この日の出来事は『魔王ナンカオルの力が女神の降臨を妨げた』として各地に散らばる事となり、女神はやらかしたと一人で両手をつくのだった。
勇者歴10年:魔王ナンカオルが女神の降臨を妨害する。
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