第24話 貴族妹の秘めたる力

魔女が諸々の準備を終えて、村へと移り住んできた。

暇な時間は表向き薬師として、村民用の薬を作り、その他の時間で勇者少女や貴族妹に魔術を教えていく。

弟子も一度は彼女の手ほどきを受けてみたが、魔術のセンスが一切ないという事が判明した為、教え自体はその一度しか受けなかった。

だが、それとは別に薬の素材の収集などで彼女の工房に足繁く通っているようである、思春期め。

そうやって指導していく中で判明した事は勇者少女は魔術もそれなりに熟せるという事と、運動音痴の貴族妹には幸いにも魔術の才能が備わっていたという事である。


「才能なら、あの娘が一番ね」


というのはそれぞれを一通り指導した魔女の弁である。

そうして、暗黒騎士に剣技も鍛えられている勇者少女には一般的な魔術指導をしつつ、貴族妹には別の指導をするという事で二人だけでの鍛錬を行っていた。

そうやって、3人の少年少女が鍛えられていき、季節が2度巡る。


貴族妹の指導にある程度の目処が立ったので、見てほしいと海岸に呼び出された暗黒騎士。

其処にはいつもの格好の魔女と、彼女から仕立てられた特別製の衣装に身を包んでいる貴族妹が待っていた。


「師匠、あれって…」

「何も言うなッ! …一旦、ここは静観である」


仕上がりを見たいと着いてきていた弟子が貴族妹の姿を見て口を開くが、暗黒騎士がそれを制する。


「フフフッ、その様子だと効果覿面のようね…でもこれだけじゃないのよ、さぁ、見せてあげなさい新しい貴女を!」

「分かりました! 行きます!」


貴族妹が詠唱を始める。

彼女の周辺に魔法陣が浮かび上がり、魔力がそれに満たされて光り輝いていく。


「『氷嵐アイスストーム』ッ!!」


解放された魔力から突風が吹くと目の前の波へと向かって吹き荒び、それは冷気を伴い何もかもが凍てついて静止した空間を作り出す。

寄る波すらそのままの形で凍り付かせるほどの魔術を披露する貴族妹。

確かにこの年でここまでの魔術を練り上げるのは一筋縄ではいかず、彼女の才能を裏打ちしているだろう。


「や、やった、本当に出来たっ!」


自分が行った事をまだ信じられないといった様子で飛び跳ねて喜ぶ貴族妹を余所に暗黒騎士と弟子は魔女の方へと歩み寄る。


「確かに良き才能であるが、はどういう事だ?」


暗黒騎士が貴族妹に目を遣る。


「あぁ、その…俺そんな趣味ない筈なのに…すげぇ、い」


弟子も顔を赤らめつつ、若干前かがみで魔女に尋ねる。


今の貴族妹の姿は黒を基本としたボンテ―ジとメッシュ加工の全身タイツでボディラインを強調し、そこそこ発育の良くなっている貴族妹を殊更引き立てている。

更に詠唱中も無駄に扇情的な動きや、一々蠱惑的な声でこちらを魅了しようとしてくる。


「フフフ…よく聞いてくれました。これはあたしが新しく考案した全く新しい黒魔法!! その名もエロティック黒魔法よッ!!」


ピンクのエフェクトを発生させて勝ち誇る魔女を前に、「あ、そういやこいつ淫魔だった」と思い出す暗黒騎士。


「ハイ、弟子ちゃん。魔法使いの弱点は何だと思う?」

「え? 接近戦が苦手な事とか、詠唱を阻止されやすい事とか…?」


ズビシッと指を指されて、一応は真面目に答える弟子。


「そうね、その通りよ、でもねあたしのこの魔術なら! 詠唱中もむしろ攻撃! 今の君の様に相手はまともに動けなくなること請け合いよ!」

「馬鹿なのか、馬鹿なのだろうな? そもそも無生物や女相手なら無意味だろう」

「フフッ…あ、本当だ」


今気づいたみたいな顔をする魔女。


「今からでも矯正してやるのだ、流石にはそのなんだ、可哀そうだぞ、将来的に!」

「…ごめんなさい、あれらも全て詠唱術式の一部なの今更矯正する事は不可能よ…」


俯いて目を逸らす魔女、絶句する暗黒騎士と弟子。


「…せめて、本人が気づくまでは黙っていてやるのだ」


はしゃいでいてこちらの会話に気づいていない貴族妹を優しい目で見守りつつ、3人は静かに頷いた。


勇者歴10年:貴族妹がその才能を(取り返しのつかないレベルで)発揮する。

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