第19話 暗黒騎士、助力を願う

淫魔女王の案内で3人(1名気絶中)は主の間へと通される。

豪奢な家具で彩られたその部屋で淫魔女王は棚の酒を手に取り、


「まずはダーリンとの再会を祝して乾杯しない? そっちの小さな子は果実水でいいかしら? あ、そっちの子はベッドに寝かしちゃっても構わないわよ」

「はい、頂きます! それとお言葉に甘えさせて頂きますね!」


貴族妹をベッドに横たわらせつつ、勇者少女は興味津々といった様子で部屋の中を見回している。物語の中の部屋のようでいつもより軽く興奮気味なようだ。


「あぁ、では戴こう。 再会を祝して」


差し出されたグラスを手に取り、酒を呷る。


「再会を祝して」


それをうっとりとした様子で眺めていた淫魔女王も手に持っていた酒を口に含み、どこか芝居染みた所作でゆっくりと呑み込む。

その一連の艶めかしい仕草を見ていた勇者少女が「これが大人の女…! お母さんとは違うタイプの…!」と妙に感心していたりする。


「ふふっ、いつものお酒でもダーリンと一緒だと思うと美味しく感じるわね」


ぺろりと淫靡に舌なめずりする淫魔女王に対して暗黒騎士はといえば一々嘘くさいし、やたらとこっちにアピールしてくるのが苦手なんだよなぁと心の中で思っているのだけれど。


「さぁ、飲んで飲んで!」


そんな暗黒騎士の胸の内なぞ知らずに淫魔女王はどんどんと酒を注いでいく。


「お、おい! 我は軽くでよいぞ! まだ日が高いではないか!」

「いいからいいから!」


実はこれも淫魔女王による酔わせて一発しっぽり作戦の一環なのだが、この作戦には大きな誤算がある事をこの時は理解していなかった。





「だぁ~かぁ~らぁ~、なんでダーリンは8年もあたしのこと放ったらかしにして何処かに行っちゃってたのさぁ~」

「言わん事ではない…」


自分の腕に絡みつきながら管を巻いている淫魔女王の姿に暗黒騎士は目を手で覆っている。 そう、当の本人が酒に弱いのである。

ちなみに少女二人は飽きて寝てしまった勇者少女と仲良くすぴすぴとベッドで寝息を立てているのでこの惨状は見られていない。


「それ、顔を上げよ、そしてこれを呑むがいい」


酔い覚ましを取り出しつつ、それを淫魔女王に渡そうとすれば、


「や~ん、あ~んってして飲ませてくれなきゃヤダ~」

「あぁもう、暴れるな!」


そうやって甘えながら駄々を捏ねる淫魔女王に悪戦苦闘しつつ、酔い覚ましを強引に飲ませて暫くすれば、


「……死にたい。 威厳が…そもそも堕落と誘惑が専門なのに…」


部屋の隅で体育座りで沈み込む淫魔女王。

差しで飲むと大体このパターンなので尚更苦手なんだよなと改めて心の中で思う暗黒騎士。


「そういえば、何の用でダーリンはここに来たの? なんであれあたしの力が必要なんでしょ?」


顔を上げた淫魔女王が暗黒騎士に質問を投げかける。


「あぁ、そうであったな。 実は今我が鍛えているこの子達にお主の魔術を教えてやってほしい」


暗黒騎士の予想の斜め上の答えに淫魔女王は思わず立ち上がる。


「ハァ!? どう見ても人間でしょ、そいつら!?」

「その通りだが、我の見込み通りなら素質は我以上だ」


暗黒騎士の含みのある言葉に溜息をつきつつ、そういえばこういう性格だったと諦める。


「まぁ、良いわよ。どうせ暇してたし」


呆れつつも、好いた男の頼みを断り切れずに了承する淫魔女王。チョロい。


「助かる。 そういえば、暇という事はそろそろ魔界は統一できたのか? あやつは夢を叶えた訳だな」


友の事を思い浮かべ、暗黒騎士は笑みを漏らす。

しかし、淫魔女王はその言葉に怪訝そうな表情を浮かべ、


「もしかして…ダーリン知らないの? 死んだわよ、彼」


暗黒騎士の思いもよらぬ言葉を投げかけた。


勇者歴8年:暗黒騎士、友の死を知る。

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