第18話 暗黒騎士、旧友を訪ねる
「うむ、魔導に長けた知り合いがいる。あまり人族を好いてはいないのでどうなるかは分からぬが、どちらにせよそちらの分野は我は門外漢故試してみるだけ試してみよう」
そう勇者少女と貴族妹に説明しつつ、暗黒騎士は自身の鎧をごそごそと探っている。
「この辺にしまっていた筈であるが…」
「収納関係どうなってますの、その鎧?」
「ムッ、あぁここに引っかかっていたか、フン!」
肩当から大人の握り拳ほどもある丸い石を取り出す暗黒騎士。明らかに物理法則を無視している質量である。
「四次元にでも繋がってますの、その鎧?」
的確なツッコミを入れる貴族妹を流しつつ、暗黒騎士はそれに魔力を込めだす。
「これは転移石と言って、自らが赴いた事のある場所ならば即座に移動できる代物である。昔に仕合った相手から得た貴重な戦利品だ」
「へー、流石おじさま」
「そ、それって普通に国宝級の代物では!?」
二者二様の反応を返す少女達。
「えっ?」
暗黒騎士もただの便利道具くらいにしか捉えてなかったので驚いている。
「いや、何故貴方が驚いて―」
若干キレ気味の貴族妹が声を荒げるよりも早く、転移石より溢れた光が3人を包み、光の球体となったそれは凄まじい速度で空の彼方へと飛び去って行く。
「―いるんですの! って、え?」
貴族妹が言葉を言い切った時には目の前には見知らぬ光景が広がっていた。
荒れ果ててどす黒い瘴気を放つ大地と目の前に聳え立つ異質な廃城。
「ど、何処ですのここは!?」
「え、魔界」
困惑する貴族妹に暗黒騎士は何ともなさ気に答え、その返事に貴族妹は目を回してその場に倒れこんでしまう。
「おぉっと危ない! もー、妹ちゃんはナイーブだなぁ」
地面にぶつかりそうになった貴族妹を寸での所で受け止める勇者少女。
だが、そういう問題ではない、むしろ普通に順応している勇者少女の方がおかしいのだが深刻なツッコミ不在である。
「それでおじさま、このお城の中にお友達がいるの?」
「友…友ではあるな、戦地を共に駆けた仲なので」
少し言い淀みつつ、暗黒騎士は扉に手を掛けて力を込める。
重く鈍い音と軋む音を同時に響かせながら扉は開いていき、
「いらっしゃいませー、Club サキュバスへようこそ!」
外観に似つかわしくない煌びやかで派手な内装のホールとずらりと並んだ淫魔達が出迎えてきた。
「初めてのご主人様でいらっしゃいますか? 当店のご利用上の注意を-」
案内役の淫魔が説明しようとし出すのを制し、
「いや、客ではない。主人に暗黒騎士が用があって参ったと伝えてくれ」
その言葉に淫魔達はざわめきだし、事情の分からない勇者少女は気絶した貴族妹を背負いつつ首を傾げている。
周囲からの好奇と嫌疑の視線に晒されながら待つ事数分。
暗黒騎士達の元に慌てた様子で走りよってくる一人の女性。
「ダーリン? 本当にダーリンなの!? いままでどうして!!」
凡そ8年ぶりとなるかつての同僚で旧四天王の一人、風の淫魔女王との再会であった。
勇者歴8年:暗黒騎士と淫魔女王が再会する。
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