第17話 貴族妹、師事を乞う
「私に剣を教えてくださいませ!」
またこのパターンか、5年前にもこんな感じで押し切られた苦い経験がある暗黒騎士は心の内で渋い顔をする。
「え、妹ちゃんもおじさまの教室に来るの? いいね、一緒にやろう!」
その横で最近は暗黒騎士の事を何故か『おじさま』と呼ぶようになってきた勇者少女が嬉しそうな顔で貴族妹を出迎えているので暗黒騎士は断る口実を失ってしまった。
この二人は年も一緒な所為か、特に仲がいいのだ。
貴族妹が頼めば、勇者少女は喜んで受け入れてしまう。
仕方ないなと腹を括り、稽古用に仕上げた木剣を貴族妹に手渡す。
「まずはそれを好きな様に振ってみせよ、その剣筋でお主の腕を測ろう」
手渡された木剣を握り締め、貴族妹は生唾を飲み込む。
「やってみせますわ…この為に自分でも身体を鍛えていましたもの」
その言葉に内心、ある事を思い出して暗黒騎士は首を傾げるが口を挟むのも野暮なので黙って見つめている。
貴族妹は木剣を正眼に構え、大きく振りかぶる。
「エェーイ!」
掛け声と共に本人としては勢いよく振り下ろしたつもりの木剣だが、まるで蠅の止まるようなすっとろい動きでへろへろと地面に向けて3秒くらいかけて到達する。
ここまで酷いと逆に凄いレベルの駄目駄目さである。目も当てられない。
そもそも、その程度の動きで全力で目を瞑るな、ちゃんと目を開けて剣を見ろ。
「ど、どうでしたの!?」
何故か本人は自信満々な様子の貴族妹は期待に満ちた目で暗黒騎士達の方に振り替える。勇者少女は即座に目を逸らし、タイミングを逃した暗黒騎士は本当に、本ッ当に申し訳なさそうに。
「うん、駄目。本当駄目。微塵も才能ない位駄目である」
「そ、そんな…」
暗黒騎士の断言にショックを受けてその場に座り込む貴族妹、むしろ何故あれでそれほど自信があったのかが分からない。
「毎日腕立て3回出来る位には頑張りましたのに…」
せめてもう一桁位頑張ってほしい数字を呟きつつ、顔を曇らせている貴族妹に勇者少女は優しく肩を叩いてあげて、
「妹ちゃんはそもそも50m30秒の運動音痴だから向いてなかったね、別な事でがんばろ?」
素直にも程があるほどの慰めにならない慰めの言葉をかけている。
「フム、別な事か…よもや良い伝手があるやもしれぬ」
「「えっ?」」
暗黒騎士の呟きに二人は目を見開いた。
「久方ぶりに会いに行ってみるか、あやつに」
勇者歴8年(春):暗黒騎士、遂に動く。
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