第12話 暗黒騎士と権力闘争の敗者
一台のぼろぼろの馬車が碌に整備のされていない道をひた走り、小さな村の手前まで来ていた。
乗っているのは御者と年若き娘、それに彼女が抱える幼児だ。
「其処で止まれ」
響いた声に馬が嘶き、手繰る手綱も無視して歩みを停めてしまう。
動物的本能で目の前の脅威に反応したのである。
「何者であるか?」
馬車の手前には人の背ほどもある大剣を地面に突き立てて、威圧する黒い鎧の騎士。
御者はその異様なまでの雰囲気に呑まれ、何の言葉も出せずに震えている。
こんな辺境の地に何故このような者がいるのか理解出来ない恐怖もあり、実際その通りである。何でいるんだろうね?
このような状況でいち早く動いたのは馬車に乗っていた女性である。
「私はこの国の伯爵の娘です! しかしあらぬ疑いをかけられ爵位剥奪の上、一族処刑の憂き目にあい落ち延びて参りました、何の見返りも出来ませぬがどうか助けては頂けませぬでしょうか」
「え…大変であるな」
心の底から不憫そうな声を出す謎の騎士こと暗黒騎士、忘れてはいけないが魔族である。
女性の発言をあっさりと信じ込む。
そういえば前の執務室にはよく分からない海豚の絵とか壺とかあった。
「だが、我の独断で判断する事は叶わぬ、村の者に相談する故、暫し其処で待たれよ」
丁度其処を通りがかる茶飲み友達の村長。
「良き間である、村長よ。この者らがこの村に落ち延びたいらしいが」
「えぇよ」
「良いそうである」
今更だが不審人物である暗黒騎士を受け入れている時点で懐のデカすぎる村なのである。
こうして新たに迎え入れられた没落貴族の元令嬢とその幼き妹であるが、この妹の方が後の苦労人、
もとい勇者の仲間の一人である魔法使いとなるのである。
勇者歴3年(夏):選ばれし者の一人が村へと現れる。
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