第8話 暗黒騎士、一度目の試練

その日の夜の事。

赤子が寝たのを確認すると、夫人と暗黒騎士は起こさぬ様にそっと部屋を出る。

そのまま二人は居間で共に晩酌をする。


「あの人が亡くなってからそろそろ1年ですね…あの子もどんどん出来る事が増えていって…」

「子の成長は早いものだな、我が目はあの子が立派な戦士に育つと見ているが」

「ふふっ、あの子は女の子ですよ? 戦士だなんてそんな」


クスリと笑った夫人の目にうっすらと光るものがある。


「私の事をママと呼んでくれました…それに」


潤んだ瞳が騎士を見据える。


「騎士様の事を」

「ご婦人」


何かを言おうとする夫人の言葉を暗黒騎士は遮る。


「冗談でも、その先を言ってはいけない」

「…私は」


暗黒騎士の声は真摯に夫人へと向けられている。

故に夫人も口をついてしまおうとした言葉を寸での所で飲み込む。


「どうやらお互い悪酔いしてしまったようだな、もう休まれるがよい」

「はい…」


夫人は目を伏せつつ、グラスを片付けると赤子の眠る部屋へと戻っていく。


そうして、静かになった居間で一人残っていた暗黒騎士は、


「フンッ!」


己の頬(兜越しではあるが)を本気で殴りつける。


「冷静になるは我も同じ事か、これでは同胞へ合わせる顔がない」


割と暗黒騎士の理性も結構ギリギリだった。


勇者歴1年(秋):暗黒騎士、煩悩を(ギリギリで)振り切る。

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