第23話 爆散しろこの野郎ッ!!

 ユーゴとクラウは即日【月下の腕輪】の面子に引き合わされ、臨時の荷運び人(護衛付き)として雇われることになった。メンバーが家臣のため、屋敷に揃っていたのだ。


 ガライの幼馴染でもある騎士のクリフと治癒師のマリア、斥候のハーリー。ユーゴも顔を合わせたことはあるが、ちゃんと紹介されるのは初めてだ。


「危険な場所に来てもらうことになるけど、本当にいいのかい?」


 最初ガライはマジックバッグの賃貸契約を提案したのだが、ユーゴは同行にこだわった。


 賃料だけでなく、万一の時の賠償も込みで正式な契約を交わすと言われたが、ユーゴが持っているのはアイテムではなくスキル。元々貸せないのだから一緒に行くしかない。


 探索の邪魔はしない、自前の護衛も同行する。ユーゴはそれで通した。幸いというと何だが、マジックバッグはそれなりに希少品なので他人に貸したくないという意見は理解された。ユーゴが運べると言った物資が相当量に上ったことも説得力になった。


「クラウがいるから大丈夫ですよ。背後は任せてください」

「本当にありがとう。充分な報酬を約束するよ」


 クラウに前衛に入ってもらえないかという声はあった。だがクラウ自身が首を縦に振らなかった。振ると落ちるからというわけではなく、あくまで優先順位の最上位はユーゴであるからだ。


 ユーゴの身体能力は基本的にただの一般人だ。後衛に置かざるを得ないし、そのユーゴから離れて前衛として立つわけにはいかない。かわりにバックアタックは、あったとしても絶対に通さないと豪語した。


 元々上位パーティである【月下の腕輪】のメンバーは、それで納得した。無理を頼んでいるのはわかっているし、背後を心配しなくていいだけでも充分だ。パーティの連携もできあがっているため、二人は別パーティとして考えることになった。


 ダンジョンの閉鎖が解かれたら、一気に攻略を目指す。【深闇の狩人】に先を越されたらアージン家は多大なダメージを受ける可能性が高い。コアを見つけるまで戻らない覚悟だ。





 晩餐までご馳走になって、ユーゴとクラウは宿に戻った。泊まってもいいと言われたのだが、一応バルナバスの様子を監視しようと思ったのだ。


 だがテリトリーを発動し、バルナバスの居所を探ったユーゴは即座に後悔した。


「うひゃああっ!?」

「どうした、主?」


 ベッドの上で飛び上がったユーゴに、クラウが駆け寄る。


「顔が赤いぞ。熱でも……?」

「な、ナンデモナイデス!!」


 布団をかぶって丸くなる。クラウに察知されたら妙なトリガーを引きかねない。


「明日に備えて早寝する!」


 宣言してユーゴはまた恐る恐る意識を集中した。


 畜生! 婚約者取り返すとか言いながら何やってんだよ! 阿呆かッ!!


 バルナバスはどこからか女を連れ込んでいた。連れ込んで夜となればやることは決まっている。


『もうすぐ弱小子爵に吠え面かかせてやるのヨン!』

『あんッ、若様ァ』

『ここがイイのネン? フフ、あの魔道具があればコアもイッパツなのヨン!』

『あんっ、ああん』


 微妙に陰謀関連のことを口走っているから放置し辛い。


 なんでこんなのぞきじみたことをしないと……でも何か大事なことを言うかもしれない。ザマロに渡したのはコア狙いの魔道具だったのか? 一体どういう効果があるんだ。


 見たいような見たくないような絵面にユーゴは頭を抱える。音声だけにできるかもしれないと思うが、それはそれで想像力を掻き立てそうで嫌だ。


『お前のおっぱいも素晴らしいのネン。でもあっちのおっぱいも逃がさないのヨン!』


 うるせえ! とっとと重要事項を吐け!


 やさぐれた気分で虚しい監視を続けるユーゴ。太ももをぎゅっと締めながら『Be cool』と繰り返し自分に言い聞かせる。


『あ……んっ、若様ァ、もっとォ』

『もうすぐ最奥なのヨン! 十八層なのネン! 先にイクのネン!』


 どっちだよ! 今のどっちの情報だよッ!?


 【深闇の狩人】は実は十八層まで行ったことがあるのか。マッピングや調査が済んでいたら【月下の腕輪】より先行しかねない。


『ボクもイクのネン! アッ――!』


 ユーゴは思わずがばっと起き上がり、枕をつかんで壁に叩き付けた。


「爆散しろこの野郎ッ!!」


 これ以上見ていられるか! 成人前の青少年に何を見せるんだ、この野郎!


 自分からのぞいたことは棚に上げて、ユーゴはバルナバスに殺意を滾らせる。機会があればいろんな意味で立ち上がれないようにしてやりたい。


 そもそもザマロがいないのだ。バルナバスが何を言っても不確定情報にしかならない。こんな状況では特に。無駄、無駄、無駄ァッ!


 ベッドの上で荒い息で肩を揺らすユーゴの前に、ゆるく髪を編んで流したクラウの首が置かれた。


 気付かれた!


 ふわりと背中側から抱き着いてくる絹の感触にぞくりとする。


「主。我慢しなくても……」

「ごめんなさい――――!!」


 初めては大事だ。状況に流されてというのは嫌だ。しかもあの白豚若様バカさまに流されてなんて最悪だ。思い出が汚される。


 欲望はあるが夢だってあるのだ。可愛い彼女がいるなら、男らしく口説いていい雰囲気になりたい。断じて即物的に押し倒してはならない。


 紳士的にかっこよく大人な感じで! ちょっと野性味を見せるのはアリ。でも欲望むき出しのケダモノはダメ! かっこ悪い!


 少年の理想と理性を支えに、掛布団を盾にしてユーゴは必死に誘惑を振り払った。

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