第11話 召喚コスト
初めて入ったダンジョンは、洞窟のような作りだった。天井や壁はほんのり光っていて、意外と明るい。
入口近くは魔物もおらず、静かな通路をユーゴとクラウは進んでいった。
見つけた階段を降り、しばらく進んだが相変わらず何も見当たらない。
「どう? クラウ」
「人の気配が多いな。獲物にするのは魔物だけなのだろう?」
「う、うん」
さっきの連中はどうやら人間にも手を出しているようだった。
気に障ったりトラブルになった冒険者を、闇に葬っているのではないかという疑いがある。グローツはそう言っていた。そんな軽い理由で冒険者同士殺しあうとか信じられない。
まだまだこの世界の常識というものにユーゴは疎い。だがグローツの様子を見る限り、やはり人殺しは褒められたことではないようだ。自衛や盗賊狩りなど正当な理由がなければ罪に問われる。
ユーゴは軽く頬を叩いて気を取り直す。とりあえずあれやこれやは一旦棚上げにして、ダンジョンに来た目的を果たさなければならない。
それは実験と実利の確保だ。
テリトリー化を使ってMPを稼ぎ、構築やアイテム生成の検証をしたい。
魔物の密度はダンジョンの方が高い。モンスターハウス的な場所を引き当てれば検証に十分なMPを得られるだろうと期待している。
そしてテリトリーの中では手を触れなくても倒した魔物を収納できる。ダンジョンでは死体は消えてしまうが、消える前に確保すればいいだけのこと。ストレージを持つユーゴには美味しい狩場になる可能性がある。
魔物がそれなりにいそうな場所。できたら他に人のいない場所を探して、二人は下へ下へと降りて行った。
「クラウ、良さそうなとこ見つかった?」
「もう少し先に、コボルドとグレイハウンドが集まっている部屋がある」
「わんわん王国?」
ユーゴが言うとクラウがふき出した。
「かもしれん。一体魔力の濃いのがいるから、上位種だろう」
クラウがどうやって広範囲の探知をしているのか謎だったが、どうやら魔力で識別しているようだ。
「まずは私が行く。敵の注意を引き付けるから、主はテリトリー化を」
「うん、お願い。テリトリー使ったら言うね」
「言わずともわかるぞ」
「えっ、そうなの?」
「うむ。当然だ」
「当然なのか……」
召喚モンスターは主と何かしらつながってるのかなとユーゴは思った。クラウのことだから気合で感じるとか言いそうだが。
部屋の前まで来ると、クラウがユーゴを振り返る。
「では行くぞ」
「うん」
クラウは扉を蹴破った。中にいたコボルドのグループが武器を構える。グレイハウンドは激しく吠えたてた。ユーゴは意を決してクラウの後ろに滑り込む。
「テリトリー化!」
これで一旦MPは空になるが、部屋全部をテリトリーの範囲に収めることができた。打ち合わせ通りクラウはユーゴの合図を待たずグレイハウンドを、コボルドを、そしてひときわ大きいコボルドを倒した。
「おおう」
早速ステータスを確認したユーゴは、MPが500を超えたのを見てにやりとする。普段の五倍だ。
「じゃ部屋作るか。おっと、その前に死体回収」
魔物の死体は討伐報酬や素材になる。消える前にさっさとストレージに入れてしまおう。
淡く光る粒子になってコボルドとグレイハウンドの死体が消えていく。
「とりあえず一人部屋だな」
部屋を作る目的はユーゴの安全のためもある。MPを多めに消費して、ユーゴは丈夫で狭い石室を作った。扉はなしにして視界を確保する。障害物のある場所には魔物は沸かないらしいので、一人分のスペースしかない内部は安全だ。
「お。椅子置けるぞ」
MPを余分に使って丸椅子を作り、ユーゴは座った。入口の前にはクラウが控えているから、あとはのんびり魔物のリポップ待ちだ。もし廊下を通る魔物がいたら、それも引き込んで倒す予定になっている。
冒険者ギルドで聞いたところでは、リポップのサイクルはダンジョンによって違うらしい。このダンジョンの上層は比較的沸きが早いそうで、一、二時間くらいで復活するのだとか。
ユーゴはその間に開いた操作画面をチェックしようと思っていた。
「お。レベル3になってる。あ!」
召喚が可能になっていた。森では驚きのあまり見逃していたのか。まさかの戦力増強チャンスだ。
「何が呼べるのかな!?」
ワクワクしながら画面に触れてみると、二枚目の画面がポップする。
「……スライム? え……!?」
ユーゴは画面を見てぽかんと口を開けた。
「嘘でしょ! 召喚コストってレベルなの!?」
そこにはレベル1を消費してスライム二体が召喚可能だと表示されていた。
ユーゴはMPを確認する。例の蔦部屋ならまだ作れそうだ。石室につなげるように増設してみる。レベルが4になった。
「マジか……」
部屋数がそのままレベルになるというより、消費MPに比例する感じか。召喚の方も4レベルを消費して呼び出せるモンスターのリストが増えている。とはいっても、レベル2でゴブリン。3でコボルド程度だ。
「……俺もしかして超高レベルだった……?」
ユーゴはクラウを見る。クラウは軽く首を傾げる。あんまり曲げるとバランスを崩して胴から落ちるのでごく軽く。ユーゴは何でもないと首を振った。
4レベル使ってもコボルドリーダーである。知性と人格を持ち、その上にあの美貌と戦闘力。さらに空を駆ける乗騎に乗るデュラハンのコストは一体何レベルだったのやら。
ユーゴがちょっと遠い目になっていると、突然ダンジョンが揺れた。地鳴りのような音が聞こえてくる。同時に広間にコボルドとコボルドリーダーがリポップした。
「主!」
クラウが叫んだ。
地鳴りに聞こえたのは石畳を踏む足音だ。部屋の入口から、コボルドとグレイハウンドの大群がなだれ込んできた。
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