第8話 テリトリー化
冒険者証を手に入れたユーゴは、クラウと二人でちょくちょく森に通っている。狩りとスキルの検証のためだ。いずれはダンジョンにも行ってみようと思うが、まずは自分の能力を把握しなければならない。
「MPは休めば回復するけど、このテリトリー化ってちょっと使えなさすぎじゃ……」
このスキルを使うと、テリトリー化した範囲内のことが手に取るようにわかる。効果時間は不明だが、一度かけたら何時間経ってもそのままだった。効果自体は素晴らしいのだが、色々と残念すぎた。
100MPを消費して最大で半径5メートルの範囲を感知圏内にすることができる。この先レベルが上がってMPが増えるかもしれないが、現時点ではコストと範囲が見合っていない。なお、MPが0になっても気絶はしなかった。
MPは時間経過で自然回復するが、それなりに時間がかかる。MPポーションは正直マズイのであまり飲みたくないが、検証のため我慢している。
その上にこのスキルは場所に対して使うものだった。自分中心でしか使えず、指定した範囲がそのまま固定されるので、ちょっと歩けば感知圏内から出てしまう。しかも指定した範囲を出ると解除されてしまうのだ。
「待ち伏せには使えるけど、普段使うものじゃないな」
「私が警戒するから、気にせずとも大丈夫だ」
「お願いします」
「任せろ」
ユーゴが言うと、クラウが満面の笑みで頷いた。
一応誰が来るかわからないので、クラウの首は胴体の上に乗せている。マフラーのように布を巻いてはいるが、締めると苦しいらしいのであまりきつくしてはいなかった。ちょっと心配だが、体幹がしっかりしているのか歩き回ってもぐらつく様子はない。
「……む」
クラウが森の奥へ目をやった。
「あ」
ユーゴも気づいた。検証のため最大範囲で展開していたテリトリーの中に、魔物が侵入したのだ。
「ゴブリンが4体!」
ユーゴが感知内容を口にした時には、クラウが動いていた。
「ギャギャッ!」
木の枝を尖らせた槍を持って突撃してきたゴブリンは、あっさりとクラウに瞬殺された。
「ゴブリンの討伐証明って耳でよかったっけ?」
魔物とはいえあまりいい気持ちはしない。できれば触りたくはないなとユーゴは思った。
すると、ゴブリンの死体が粒子になるエフェクトとともに目の前から消える。ストレージに収納する時と同じ光景だ。
「あれ?」
触らなければ収納できなかったはずでは。
ユーゴは『操作画面』を出して確認した。ちゃんとゴブリンはストレージに入っている。だがそれよりも驚いたのは、使いきっていたはずのMPが120まで回復していたことだった。
「え……100が最大じゃなかったの?」
見るがレベルは1のままだ。
クラウが魔物を倒してもユーゴのレベルは上がらない。ゲームでやるように一発殴るなどしてみたが、結果は出なかった。今までMPが100以上に回復したことはなく、ユーゴはずっとこれが自分の最大値だと思っていたのだ。
「主?」
ユーゴは何故こんなことになったのか考えた。テリトリー化でMPの回復速度が速くなったことはない。クラウがゴブリンを倒したのも初めてではない。以前と何が違うのか。
「テリトリー化……?」
自分は勘違いをしていたのかもしれない。探知系のスキルならもっとわかりやすく探知とかサーチとかそういう名前でもよさそうなものだ。
思いついたら実験だ。
「クラウ、近くになんか別の魔物はいない?」
テリトリー外のことはユーゴにはわからない。クラウに訊ねると、彼女は言った。
「フォレストウルフらしい群れがいるが」
「連れてきて。で、テリトリーの範囲に入ったら倒してくれる?」
「承知。だが少し距離があるな……」
クラウは少し考えて、ひょいと自分の首を外すとユーゴに渡す。
「えっ!?」
「私は主から離れることはできぬ。体だけ行かせることにしよう。大丈夫だ。近くに他の人間の気配はない」
ユーゴに抱えられてクラウの首が楽しげに笑った。唖然としている間に首から下は駆け去って行く。
渡された時、ユーゴは両手でクラウの頬を包むように受け取ってしまった。目が合うと、クラウはそれは嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。柔らかいし暖かいので何とも言えない気分になる。
吠え声とともに黒騎士の体が戻ってきた。テリトリーの範囲内、だがユーゴには近づけぬうちに大剣が一閃。五匹いたフォレストウルフが倒れる。
「えーと……」
『操作画面』を確認すると、MPが220になっていた。さっき120だったのだから、フォレストウルフ一匹あたり20増えた計算だ。
「テリトリーの中で敵を倒すとMPが増えるってこと?」
フォレストウルフの死体に意識を向けると、粒子化して消える。ゴブリンと同じように、ストレージに入ったのだ。これで確定。テリトリー内なら触れずともストレージが使える。
もう一つ気づいたことがある。さっきまであった『構築』の「不可」の文字が消えているのだ。
何かあっても周囲に人はいないとクラウは言った。この際だからやってみようと思い、ユーゴはその項目に触れてみる。
その途端にユーゴの頭に浮かんだのは、MPを消費して作る建築物のイメージ。洞窟や石作りの壁や床、木のうろ等々。
「何? これ……」
MP100で作れる蔓で編んだような部屋を選んでみる。部屋というほどのものではなく、辛うじて上下左右が囲われているという程度のものだ。
ユーゴの周囲を囲むように蔓植物が現れる。木々の間にあれば自然に紛れ込みそうだ。
「ええっ……!?」
ユーゴはそこで思わず声を上げた。
部屋ができた途端、『操作画面』に表示されていたレベルの項目が、1から2になったのである。
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