第4話

 ここまで俺は、ネットワークビジネスで盛り上がっていたのに、今は一般企業の営業サラリーマンをやっている。

 なぜネットワークビジネスを辞めたのか。

その話をしようと思う。


ーーーーーー


 その日俺は、フロントの女の子がSNSを使ってビジネスやリア充アピールをしたいが為の、少しずれた、海でのバーベキューパーティーに呼ばれた。

 俺はこういう環境が本当に苦手だったが、フロントの面目上、話を聞いたり挨拶に付き合わなくてはならない。

 そんな中で、一人の大学生の男性と知り合った。かなりの高身長で爽やかな奴だった。

 ネットワークビジネスは、学生はNGだ。

 しかし彼は、フロントから話を聞いて、大学を卒業したら即ネットワークビジネスを始めたい、とかなり燻っていた。

 話を聞いていくと、周りの「同じスーツを着て、右習えでの就職活動をして、時間で拘束されるのに、収入はある程度までしか稼げない雇われの人生なんて嫌だ」と、まるで昔の自分の様な発言をしたのだ。

 しかし俺は彼に「大卒ってのはある意味、社会的にはブランド名や検定書みたいかもんだから大学はちゃんと卒業しとけ。あと実家暮らしだったら尚更ネットワークビジネスの事は家族に話すな。絶対に反対される。貯金して大学卒業して一人暮らししてから始めろ。普通に始めたら友達や家族を失うぞ。」と、伝えた。

 というか、他のチームがそんな奴等ばっかりなのを見ていたからだ。

 まず、ネットワークビジネスで実家暮らしと、金の無い奴には声すらかけない。

 実家暮らしなら、ねずみ講イメージで親に反対されるし、金や人脈のない奴はビジネスじゃなくて、サークル活動か何かと勘違いしていて面倒くさい。

 こっちは生活の為にやっている。

 向こうが勝手にくっついてきて、勝手に製品を買ったのに「騙された」「買わされた」とかさ……小学生のイジメじゃないんだから、「自分の意思で」「自分の金で」「自分の時間で」決断と行動をするべきだと思う。

 が、一般的なネットワークビジネスのアポイントのやり方や、ルールがその様な圧迫的な環境を作ってしまっているのも事実ではあるので、一概に「被害者」となってしまう人物の事を責める事は出来ないのかもしれない。


 俺は、なんだかんだ彼を可愛く思っていたのかもしれない。彼は、自分の休みの日と俺のマケが重なる日はないか、とよく連絡してきた。あと、実家暮らしな事もあり、しかもそこそこ良い家柄のため、そこそこ良い車で俺のアッシーをしてくれた。

 傍から見れば、爽やか高身長イケメンが良い車でアッシー。しかも大学生でネットワークビジネスの勉強の為に俺にくっついている。……まあ、事実ではあるが理想的過ぎるWin-Winな関係だけに、周囲の俺へのイメージアップにはかなり貢献してくれていた。


 そんなある日だった。彼からの連絡がいきなり途絶えた。心配していると、二ヶ月くらい経ってから、久々に「マケに同行させてほし」と、連絡が来た。久々に会った彼は

ヤツレていて、あの野心や輝きが消えていた。そして、車はレンタカーとなっていた。

 彼を問い詰めてみたら、なんと彼は親にネットワークビジネスの事を話してしまったらしい。そして喧嘩となり、大学卒業前に大学を中退し、一人暮らしを始めていたのだ。さらに、俺の側にいて「マケ」や「デモ」のやり方を見ていたのにも関わらず物の見事にビジネスは失敗。友人に声を掛けきってしまい、友人を失い、助けてるくれる人物も居らず、やる気だけで始めた結果、製品を大量購入し、生活がキツくなり、借金をしてしまった、と言うのだ。

 俺は背筋が凍る様な感覚だった。

 最初に約束しただろ?

 そんな奴等ばっかりだって忠告しただろ?

 ……俺が彼を連れ回し過ぎたから、彼は我慢出来ずこうなってしまったのか?!

 俺が、彼の人生を狂わせてしまったのか?

 むしろ俺は、「ネットワークビジネスで成功出来る奴なんて限られているから普通に就職活動しとけ」と伝えるべきだったのか? 

 

 彼は俺に言った。

「借金の額も問題なんですけど、借りた所がやばくて……俺、もうこれしかないんです!後がないんです!」

「……後がないからもうネットワークビジネス辞めろ。準備不足なのもあったがお前にはネットワークビジネスのセンスが無かったんだ。だから今の状況なんだよ。実家に帰ってご両親に謝ってフリーターからでいいからまともに雇われて働いた方がいい。」

「……わかりました。」


 これが彼と俺との最後の会話となった。

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