第3話
そこから俺は、フリーターを辞め、ネットワークビジネスを本格的に始めた。
あと、チームが違えど、こないだ知り合った憧れの彼の主催パーティーに呼んでもらえる様になった。正直、彼からしたら俺は、取り巻きのひとりで、パーティーの頭数合わせでしかないのかもしれない。単なるパーティーではないから、もちろん参加するにはそこそこの金額の参加費を毎回取られた。しかし、色んな業種で副業している人間が集まってくるから、逆に自分の横の人脈が広がる。
これは本当に有り難い事で、例えば、フロントの客が、製品やビジネスに興味が無かったとする。しかし、興味があったり憧れの業界や職業との人脈を得られたり、近付けるチャンスのある人間が「俺」で、その環境がこの「ネットワークビジネス」だ、と錯覚させる事が出来るのだ。
また、もし万が一、上層階級の人物達と仲良くなれなかったり無理に連絡先を交換しなくても、一回でも会話が出来ればそれで充分だった。
なぜならフロントからしたら、その一回の会話で充分にその人物と交流がある様に見えるからだ。
例えば、上層階級の人間に挨拶に行く。一般的な礼儀作法として会話は二分半ほど。
「挨拶→季節や天候の話→ここまで来る道中の話(ここで交通手段や生活環境や車等の話を引き出し、生活水準や大体の趣味などの傾向も探れ、短い会話の中での次回アプローチへの材料を作れる)→感謝の気持ちを伝える。(人は感情が動くと記憶に残りやすい)」
それ以上はいらない。
この二分半の会話で、上層階級の人物の次回アプローチでは、「挨拶→前回の天候の話→ここまでの道中の話→前回の会話で得た「もしかしてこれに興味ありませんか?実はこないだもね……(プライベート情報入手)」と、これだけで充分だ。これだけの材料で、また話す事が出来れば、あわよくばそれて覚えてもられる事ができる。
大体の上層階級者は時間には追われているし、人が周りに溢れている。そこでいつまでもくっついていたりしていても相手からしたら取り巻きの一人か、むしろ時間泥棒でしかない。ベタつくより、サラッと完結ドライな対応がお互いベストだ。
あと、フロントへは、その僅かな情報が大きな情報と俺への信頼となる。
例えば、モデルやメイクに憧れている女性はとても多い。しかし「モデル」と言っても、「モデルになりたい」「モデルの世界を覗いてみたいだけ」「ダイエットのコツだけ知りたい」「メイク方法を知りたい」「美容テクを知りたい」と、ニーズや刺さる部分は本当に十人十色だ。
しかし、まず入口である「モデルに興味ある」だけで実は充分で、「へー、モデル好きなんだ?誰好きなの?(フロント本人の見た目はもちろんだが、実は女性は見た目と真逆のタイプに憧れを抱いている事が多い。ここかなり重要)」から、「こないだモデルのカメラマンした人から聞いたんだけど……」等で、俺はその数回の交流で聞いた事を話しただけで、客に嘘や、話を大きくする事もなく、客の中で勝手に話が膨らむnn下さいかでくれる、という訳だ。
それで、客が「とりあえず楽しいからまた会いたい」と、いう印象を俺に抱いてくれれば、いずれビジネスの世界にくっついてくるか、製品を買うか、に繋がる。
まあ、繫げるんだけどね。
よく「お前の立ち位置を教えてやる」だの「他の製品を使っているのは馬鹿だ」「社畜や今の環境のままだと駄目だ」だの、本人はアドバイスのつもりかもしれないが、明らかにお節介通り越してクソバイスの勘違い経営者がいる。
俺からしたらそんなのビジネスじゃない。
別に他の製品を使っていようが、どこでどんな生活をして、どんな職業をしていようが俺の生活には関係ない。
むしろ「頑張ってるんだね」「凄いね」「あー、それいいよね」と喜ばせておいて、気持ち良くさせておいて、いずれ王手を打つ方がよっぽど効率がいい。
俺からしたら、ビジネスや製品に興味がある人物より、アンチや全く興味のない人物の方が強いフロントやユーザーになってくれると思う。
その後も、俺は主催パーティーに行く度に身なりをとにかく気を付ける様になった。
髪型は、絵で言えば額縁だし、一番のお洒落は、やはりスタイルがいい事。俺は太ってはいない、むしろ細身な体型だ。しかしそれだけで、清潔感はあるし、シンプルなシャツとパンツと革靴だけでかなり映える。あとはApple WatchとiPhone持ってるだけで「飾らないシンプルでお洒落な人」と、好感度が上がる。
俺はフロントが増え、チームがどんどん大きくなっていっても相変わらずマッチングアプリでの営業方法は変えていなかった。
ぶっちゃけフロントが増えてあちこちに呼ばれる事が多くなった為、宿代や交通費の節約だ。フロントが気を使ってそれらを準備しようとしてくれたりはしてくれたし、もちろんそれが世間一般のマナーではあるが、正直ネットワークビジネスをやっている人間は、だいたい金が無い。だから仕事の掛け持ちをしたり、隙間時間で動いたり、むしろ借金をしてしまう人間が多い。
俺はある程度自由だし、ゆとりがある。
それに下からポイントをもらうよりも、横にフロントを増やした方がポイントも入る。むしろ製品発注だけの方がポイント入る、という訳だ。
ジムに無理に通ったり、食事制限なんかしなくても、移動時間が大変で、飯を食う時間がなくて痩せていたのもある。あと当時の俺はそんなハードタイムスケジュールから疲れ切っていて、マッチングアプリで待ち合わせても、女性の話を聞くだけで精一杯なくらい時間もなかっし、むしろ性欲なんてものは沸かなくなっていたが、これが逆に「会っても手を出さしてこないで話を聞いてくれる優しい人」と、相手の中で変換され、恋愛関係等ない、むしろ良い関係性の製品発注やフロントやチーム作成へと繋がっていたのだ。ある意味、ピンチは転機とチャンスなのかもしれない。
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