201話―アゼルの怒り、大爆発!
「ラ・グーのしもべだと……?」
「ん如何にも! さあ、こうして顔を会わせた記念にぃぃぃ! 名刺持ってってちょうだ~い! ハイ! ハイ! ハイハイハイ!」
突如姿を現した男……ポルベレフは懐からド派手なペイントが施された名刺を五枚取り出し、アゼルたちに配って回る。
新たな敵の登場に、ケモノたちは一旦攻撃の手を止め様子を見ることにしたようだ。距離を取り、隙が生まれるのを待つ。
「ああ……なぁんでこう、次から次へと変なのばっかり……。ふふ、もう……ぼく、怒っちゃいました」
またもや面倒な相手が現れた、それもラ・グーの部下ときている。ストレスが限界を超え、アゼルの中で何かが壊れた。
「んん~? どうしたのかねボーイ、そんな怖い顔しふっへはふ!」
「うるさいですね……。音の出る生ゴミはちょっと黙っててください」
突如、アゼルは飛び上がりポルベレフの顔面に蹴りを叩き込んだ。あまりにも唐突なムーヴに、リリンたちは唖然としてしまう。
様子を見ていたケモノたちも、すっかり固まってしまっている。なにが起きているのか、理解出来ないようだ。
「……リリンお姉ちゃん、メレェーナさん、フェルゼさん。ちょっとだけ……この中で待っててもらえますか? サクッと
「え、あ、うん? ……ハイ」
その後、アゼルはヘイルブリンガーを拾い地面に叩き付けて穴を開ける。ちょうど、人が三人ほどしゃがめる程度の大きさがあった。
穴の中に入るようリリンたちに告げるアゼルの顔には、笑みが広がっている。ただし、目は全く笑っていなかったが。
「みんなを巻き込んじゃうといけないので、一回蓋をしますね。窮屈で済みませんが、ちょっとだけ辛抱してください。あ、フェルゼさん。その槍借りますね」
「……ハイ、ワカリマシタ」
「……ヨキニハカラエ」
たっぷりと空気を含んだ袋を裏面に取り付けた氷の蓋を作り出し、アゼルは穴を塞ぐ。しばらくの間は、息が出来るだろう。
「ど、どうしたんだろ。アゼルくん、なんか怖い……」
「いい加減、嫌になったんだろうな。あの
穴の中で体育座りをしつつ、リリンたちはこそこそ話をする。分厚い氷の蓋のおかげで、三人の声は外に漏れていない。
逆に言えば、外で何が起こってもリリンたちが知ることはないのだ。そう、何が起こったとしても。
「おい、アゼル。何をするつもりか知らんがなんでオレだけハブ」
「二人とも、そこに正座してください」
「いや、だから何をす」
「正 座 し て く だ さ い」
「……はい」
凄まじい怒気を含んだアゼルの声に、流石のゾダンも逆らうとまずいということを理解したようだ。のたうち回るポルベレフを横目に、ちょこんと正座する。
「んのぉぉぉぉぉ!! 顔がへこむぅぅぅぅぅ!!」
「本当にうるさい生ゴミですね……さっさと座ってください、お説教が出来ないじゃあないですか……。バインドルーン、キャプチャーハンド」
「おぁぁーー!?」
アゼルは顔を押さえて転げ回るポルベレフをルーンマジックで捕まえ、無理矢理正座させる。ケモノたちも、思わず座り込んでしまった。
それだけ、アゼルから発せられる殺気が凄まじいのだ。左手に持った炎の槍で地面をとんとんしつつ、アゼルは説教を始める。
「あともうちょっとで研究所に着ける……ってところでですね、邪魔者に来られると凄い不愉快なんですよ。分かりますか? 生ゴミの皆さん」
「いや待て、その理屈ならオレまで怒られる必要はないだ」
「お黙りなさい。元はと言えば、あんたたち
「……誠に申し訳ございません」
顔の前に槍を突き付けられ、ゾダンはあっさり屈した。これ以上怒らせると何をしでかすか分からないと判断し、口をつぐむ。
「ぼくたちは時間が惜しいんですよ、分かります? それなのに、元凶は反省の意思もなければ役に立つこともなし。おまけに追加の生ゴミまで来る始末。もうですね、我慢の限界なんですよ」
ぐちぐちくどくど説教をしつつ、アゼルは槍にどんどん魔力を込める。穂先が赤熱し、闇の中に陽炎が揺らぐ。
それを見てようやく我に返ったケモノたちは、アゼルを倒そうと一斉に飛びかかるが……。
「音の出る生ゴミに加えて、今度は音の鳴る粗大ゴミの群れですか……。鬱陶しいですね、皆纏めてチリに還しちゃいましょうか」
「ボーイ、何をするつもりだね? オーケイ、話し合おう。破壊とは芸術の極みの一つだが、何もここでそれを体現する必要はな」
「もう知りませーん☆ 大丈夫、みーんな仲良く灰にしてあげますから。あ、もちろん穴の中にいる三人と向こうの研究所には被害が出ないようにするので安心してください」
もう説教すらも面倒になったようで、アゼルは槍に宿る炎の魔力を暴走させて周囲の全てを焼き払うことにした。
ケモノたちは大きく膨れ上がる炎の槍に恐れをなし、一目散に逃げていく。だが、もう遅かった。アゼルは槍を頭上に掲げ、そして……。
「生ゴミも粗大ゴミもー、みーんな、燃えちゃえー☆」
「おあああああああ!?」
「んノォォォォォォォ!!!」
「ギャヒィィィィン!!」
大爆発。燃え盛る炎が周囲一帯を呑み込み、全てを灰に変える。アゼル自身も燃えているが、どうせ蘇生の炎で復活するからと気にも留めていない。
逃げる間もなくゾダンらは炎に焼かれ、消滅した。事前の言葉通り、穴を塞ぐ氷や研究所には被害を出さない辺りコントロールはちゃんと行われていた。
炎が消え、後に残ったのはどろどろに溶けた金属の塊と、地面に焼き付いた3つの人型の煤……そして、ポルベレフが持っていた絵筆だけだった。
「ふぅ。全部燃やしてスッキリしました。蓋は……うん、問題なしですね。みんな、もう大丈夫ですよ。今出しますね」
少しして、あらかじめ蘇生の炎を自身にかけていたアゼルが復活する。
「……終わったか、アゼル。何やら上の方がちょっと熱かったような気がしたが……うん、聞かない方がいいようだな」
「まあ、どっちでもいいですよ? さ、今のうちに研究所にいき」
「待てやてめぇ……! よくもオレまでチリにしてくれやがったな!? もう許さねえぞ!」
リリンたちを連れ、先へ進もうとするアゼル。そこに、復活したゾダンがとおせんぼするように姿を現した。
「チッ。あ、お早い復活ですね。もっかい死んどきますか?」
「てめぇ、今小声で舌打ちしたな!? 聞こえたぞコラァ!」
「全く、うるさいものだな。外のセカイにいる者どもは、沈黙を知らぬのか?」
一触即発の空気が満ちるなか、突如研究所の方から声が聞こえてくる。声がした方を見ると、ケンタウロスの姿をした鎖のケモノが立っていた。
「貴様……ただのケモノではないな。さては、苗床の刺客か!」
「いかにも。お前たちを消すよう、母上に命じられ参じた。この先には進ませぬ。この私が全員始末してやろう」
フェルゼが問うと、人頭馬のケモノは頷く。またしてもアゼルのストレスが高まってきたその時、ゾダンがズイッと前に出る。
「しゃあねえな。いい加減、ここらで役に立っとかねえとまたチリにされっからよ。おめえら、ここはオレに任せて先行きな」
「あ、そうですか。じゃあ、そのケモノと仲良く共倒れしてください。勝たなくてもいいので、刺し違えて死んでくださいね」
「おう、素敵なエールをありがとよ……!」
顔じゅうに青筋をビキビキさせつつ、ゾダンはアゼルの辛辣なエールに中指を立てる。この場はとりあえずゾダンに任せ、アゼルたちは急ぎ先へ進む。
「みんな、行きますよ! あのケモノに追い付かれる前に研究所に入っちゃいましょう!」
「ああ、分かった!」
「逃がしはせぬ。一人とし……ぐっ!」
「はいはい。おめーの相手はこのオレだっつうの!」
研究所に向かうアゼルたちを追おうとする人頭馬のケモノだったが、ゾダンの放った不可視の斬撃で脚を切断され動きを止められる。
「邪魔をするか……! まあいい、ならまずはお前から殺してやろう」
「やってみろよ、やれるもんならな。言っとくが、オレはつええぜ? 舐めてると……いてぇ目に合うからな」
そう口にし、ゾダンは不敵な笑みを浮かべた。
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