165話―闇霊『外道忍』アマナギ&『苦痛喰らい』ロマ

「ダメージが、完全に消えた……。それに、あの女の人の使った技は……」


 アマナギの使った技に、アゼルは覚えがあった。遠い昔、まだ両親が生きていた頃。父の蔵書の一つに、禁忌とされ抹消されたネクロマンサーの秘技について書かれた本があった。


 その本に、アマナギが用いた技が記されていたのだ。その土地に宿る死者の記憶を呼び覚まし、様々な形で使役する忌まわしき力。まだ三つの派閥に別れる前の、太古の罪過が。


「気を付けろ、アゼル。あの二人は、霊体派の連中の組織の最高幹部を務めてる。地位で言えば、あのゾダンと同格だ」


「なるほど……。それくらいの強さなら、禁忌の死操術を使うことも納得ですね。でも、どうしてそこまで知ってるんです?」


「ああ。アマナギもロマも、オレの同期だからな。オレはあいつらと一緒に、霊体派の技術を学んだんだよ」


「ええっ!?」


 カイルの言葉に、アゼルは目を見開いて驚く。戦いが始まる前から、ロマと名乗る男がやたらとカイルに執着していることを不思議に思っていたが、その謎が解けた。


「ああ、そうだ。だからこそ、俺は許せないのさ。カイル、お前は総帥殿からも多大な期待を寄せられた新星だった。だというのに、お前はあのお方を裏切った! その報い、ここで受けろ!」


「報い、ね。生憎、オレが受けなきゃならない報いは……家族に対するものだけだ。返り討ちにしてやるぜ、ロマ!」


「ほざけ、カイル。霊体派でも操骨派でもなくなった今のお前に負けるほど、俺は弱くねえ! 戦技、ペインベルブーム!」


 そう口にした後ロマは双剣を構え、全身に纏う闇のオーラを剣にも憑依させる。そして、アゼルとカイルに向かってオーラの斬撃を飛ばす。


 斬撃はロマの意思で透過と非透過をコントロールすることが出来るらしく、骨の柱はすり抜けアゼルたちだけを両断せんと襲いかかってくる。


「さあ、切り刻んでやるよカイル。お前の得意の弾丸バラ撒きなど、俺には無意味だ! 弟ともども、バラバラにしてやる!」


「フン、そういうわけにはいかねえな! バレットスキン……」


「やらせないよ~? 外道忍法、『轟々骨波ゴウゴウコッパ』!」


 反撃に出ようとしたカイルに向かって、アマナギが逆に攻撃を差し込む。骨の柱から顔がまた一つ消えらアマナギの右腕に人骨が装着される。


 腕がカイルに向けられると、拳を覆う頭蓋骨から爆音と共に指向性のある衝撃波が発射された。衝撃波は真っ直ぐカイルを狙って進み、直撃する……。


「させません! ガードルーン・イジスガーディアン!」


「あら? 防がれちった。あのちび、やるじゃーん」


 ことはなかった。寸前でアゼルが飛び込み、ルーンマジックを用いて攻撃を防いだのだ。それを見たアマナギは、つまりなさそうに口を尖らせる。


「ちぇー、あのまま直撃してれば木っ端微塵で肉と血の雨あられだったのにー」


「そうはいくかよ! サンキューアゼル、これでやれるぜ。バレットスキン、モータルスリープ! こいつを食らいな!」


「お? いいよいいよ、来なよ。ぜーんぶ、受け止めてあげるからさぁ!」


 素早く装填リロードを行い、カイルは四発の弾丸をアマナギ目掛けて放つ。そのまま弾丸を食らい、相方とのコンボを狙うアマナギだったがそうは問屋がおろさない。


 カイルが放ったのは、着弾する寸前に破裂して中に仕込まれた粉をバラ撒く特殊な弾丸だ。仕込まれた粉は、吸い込んだ者を深い眠りへと誘う効果がある。


「わぷっ! なにこれ、なんか眠くなってきた……」


「悪いが、お前らの手の内はだいたい読めてんだよ。ロマのパワーアップは阻止させてもらう……っつーことで、寝ときな!」


「チッ、面倒な。だがムダなことだな。俺たちがいつまでも進歩しないと思っていたら、大間違いだ! 戦技、ダークオーラ・イリュージョン!」


 元同期なだけあり、カイルはロマとアマナギの戦術に対抗する知識があった。ロマは他者の苦痛を食らい、力を増すという能力を持つ。


 そのため、二人は闇霊ダークレイスとしては異例である生身での活動を主体としているのだ。故に、普段は効果がない毒の類いが効く。


 つまり、アマナギを眠らせてしまえばロマが苦痛を食らって力を蓄えることを阻止出来るのだ。とはいえ、相手もそういった弱点を理解している。


「オーラが動いた!? 何かしでかす前に止めないと! サモン・ボーンビー! ロマを止めてきて!」


「フン、ムダだ。邪魔はさせねえよ。外道忍法、『断針乱射ダンシンランシャ』!」


 相手の策を止めるべく、アゼルは八匹のボーンビーを放つ。だが、今度はロマが骨の柱を操り始める。柱の表面に浮かぶ顔の口が開き、腐肉の針が乱射された。


 ボーンビーは針に貫かれて墜落し、アゼルもカイルも自分の身を守るのに精一杯な状況に追い込まれてしまう。その間に、ロマは爆睡しているアマナギをオーラで包む。


「いつまでも寝てんなよ、アマナギ。さっさと起きな! リクルート・ペイン!」


「もふぁっ!? おっとっと、危ない危ない。サンキュー、ロマ」


「チッ、せっかく眠らせたってのに。なら、何度でも寝かせるだけだ!」


「残念だけど、そうはいかないよー。もう、そんなの効かないからね。さあ、フォルドビア山に眠る死の記憶よ! どんどん目覚めて、もっと苦しみを寄越しなさーい!」


 オーラがロマから切り離され、アマナギの身体を包み守りの皮膜となる。勢いに乗ったアマナギは、両手を地に着けさらに骨の柱を呼び出した。


「知っているか、小僧。このフォルドビア山は、数年前に整備が行われるまで頻繁に落石事故が起きていた。数百年に渡って、何十何百と死人が出たそうだ」


「それがなんだと……まさか!」


「そうだ。アマナギが呼び出しているのは、そうやって命を落とした奴らの記憶が具現化した存在なのさ! 可哀想になぁ、死んでなお仮初めの自我を与えられ、俺たちに苦痛を提供するために働かされているんだからな! ククク、ハーッハッハッハッ!!」


「外道たちめ……!」


 大笑いするロマとアマナギを見ながら、アゼルは怒りで心を燃やす。死者の眠りを妨げ、自分たちの都合のいいように使役して最後は使い捨てる。


 そんな非道を、決して許すことなど出来ない。その思いはカイルも同じようで、忌々しそうに骨の柱を睨み付けていた。


「相変わらずだな、お前らは。本当に虫酸が走るぜ、こんな真似をしてよ!」


「あれあれー、あんたがそれ言うのー? ぷふっ、バッカみたーい。あんただって、ちょっと前までは某たちと似たようなことしてたのにね!」


 憤るカイルに、アマナギは小バカにするような笑みを浮かべながら煽る。ロマも同調し、嘲りの表情を見せていた。


「確かに、そうだな。だが、オレは引き返せた。誤った道を進み続けることなく、正しい道に。アゼルが気付かせてくれたんだ。霊体派のしていることは、間違いだと!」


「そうです。お前たちがやっているのは、死者への冒涜だ。安らかに眠る者を苦しめるなど、ネクロマンサーの風上にも置けません! 必ずここで、成敗してやります! ジオフリーズ!」


 骨の柱を凍らせて動きを封じようと、アゼルは猛吹雪を巻き起こす。瞬く間に柱が凍り付き、見事封じ込めに成功したかに見えたが……。


「くだらねえな。そんな浅知恵でどうにあ出来るほど、俺たちは甘くねえんだよ!」


「その通り! そーれ!」


 ロマとアマナギは、それぞれの方法で凍った柱に攻撃を加える。オーラを纏った斬撃と手刀により、氷を砕こうとしているのだ。


「そうはさせません!」


「待て、アゼル! 迂闊に飛び込むな!」


 二人を阻止せんと、アゼルは単身突撃していく。カイルが制止するも、一足遅かった。ロマの身体から手の形をしたオーラが伸び、アゼルを捕まえてしまう。


 必殺の一撃を繰り出すべく、ロマは両腕を真っ直ぐ上に伸ばし相方に合図を送る。


「しまった……!」


「捕まえたぜ、小僧。順番は変わったがまあいい。まずはお前から死ね! いくぞアマナギ!」


「あいあい! 合体忍法、『禍餓槌カガツチ』!」


 アマナギがロマの元に飛び込み、ピッタリと揃えられた双剣の切っ先を掴む。闇のオーラに包まれ、腐肉と骨で出来た巨大な槌へと姿を変える。


 アゼルにトドメを刺すべく、ロマは頭上に掲げた腕を振り下ろす。禍々しき槌が直撃し、木っ端微塵に砕けつつアゼルの全身を切り刻む。


「どうだ? 俺たちの合体忍法は」


「ぐうう……効き、ましたよ。かなりの痛手です。でも……ぼくの、ぼくたちの闘志は挫けない!」


 ギリギリのところで、アゼルは耐え抜いた。折れることのない闘志を胸に、強敵たちへの反撃が始まる。


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