166話―ぶつかり合う絆
「たいした耐久力だな、俺たちの連携攻撃を食らってくたばらないとは。だが、二発目は耐えられまい!」
「させねえよ! 戦技、バレットレイン!」
「はーい、ありがとさーん。おバカなカイル、弟なんて見捨てればいいのにねぇ!」
二度目の攻撃を叩き込んでアゼルにトドメを刺そうとするロマたちだったが、そうはさせまいとカイルが弾丸の雨を降り注がせた。相手のパワーアップは許したが、アゼルは脱出に成功する。
「これ以上、お前たちの好きにはない! チェンジ、
後方に跳んだアゼルは、覇骸装を変化させた。すでに骨の柱は活動を再開しており、アゼルとカイルを包囲せんと位置を変えている。
全方位から放たれる衝撃波を避けきるのは、いくらアゼルではほぼ不可能。ならば、無傷で凌いでしまえばいい。そう考え、最も防御力に優れた姿になるが……。
「あれ!? た、盾が!」
「なんだ、どうし……デカいな、それ。重くないのか?」
「いえ、特には。そうか、この盾は……」
右腕に装着されている盾が、いつもよりも大きくなっていたのだ。アゼルの全身を余裕で覆えるくらいに大きく、それでいて驚くほどに軽い。
青い輝きを放つ盾を見て、アゼルは思い出す。盾の魔神、リオとの別れの時に彼が言った言葉。ちょっとした贈り物をしておいた、と。
これがその『贈り物』なのだろう。よく見ると、リオの持つ不壊の盾とよく似た形状をしている。
「もしかして、これが……よし、早速使うとしましょう!」
「まあ待てアゼル。闇雲に突っ込んでも、さっきの二の舞になるだけだ。今の攻撃で、またロマがパワーアップしちまったしな。策を練らないと、今度こそやられるぞ」
「ええ、ならこうしましょう。ごにょごにょ」
「ふんふん、なるほど。よし、やってみるか!」
アゼルたちは作戦を立てた後、反撃に出る。アゼルが先行して進み、すぐ後ろをカイルが追いかける形でロマとアマナギの元へ走っていく。
「フン、性懲りもなく突撃してくるとはな。まあいいさ、二人仲良くあの世に送ってやる! いくぞアマナギ!」
「あいあい! 合体忍法、『
一旦変身を解除した後、剣の切っ先を掴んだままアマナギは体勢を変え倒立する。またしても姿が変わり、今度は巨大なギターのようなナニカになった。
「あいつ、何をする気だ?」
「今度の一発はドデカぜ。二人仲良く、木っ端微塵になりな!」
カイルですら知らない、ロマとアマナギの切り札が発動する。ロマがギターを掻き鳴らすと、骨の柱に浮き上がる顔が一斉にアゼルたちの方を向きつつ距離を取る。
次の瞬間、アゼルたちに向かって一斉に衝撃波が放たれた。前後左右と頭上から襲い来る衝撃波は、どう足掻いても避けることは出来ない。
ルーンマジックを以てしても、防ぎきることは不可能だろう。だが、今のアゼルには盾がある。偉大なる魔神が用いた、決して砕けることのない鉄壁の盾が。
「アゼル、来るぞ! 用意はいいな!?」
「はい! ぼくの合図で、一斉にやりますよ!」
衝撃波が迫るなか、アゼルとカイルは身体を寄せ合いタイミングを計る。それぞれの得物を構えて、ギリギリまで攻撃を惹き付け……ついに、その時が訪れた。
「今です! 戦技、コキュートスカウンター!」
「戦技、カイレドスコープ・バレット!」
「な……!?」
衝撃波が直撃する寸前、アゼルは顔の前に構えた右腕を振り抜く。すると、盾から凄まじい冷気が放出され、周囲の空気を凍らせ衝撃波を防いだ。
そこにすかさずカイルが弾丸を連射する。宙を舞う砕けた氷の欠片の間を弾丸が飛び回り、変幻自在の軌道を描きながらロマとアマナギに襲いかかる。
「まず……ぐあああっ!!」
「これで終わりです! 戦技、ブリザードブレイド!」
骨の柱を操って壁にするも、冷気を纏った弾丸により一撃で粉砕され役目を果たすことはなかった。全身を貫かれたロマに接近し、アゼルはアマナギがヘンジタギターごと叩き斬る。
「いったああぁぁい!! もー、またはらわたがまろび出るー!」
「ぐお……くっ、ぬかったぜ。まさか、一気にここまで逆転されるとは」
防御が間に合わず、ロマもアマナギも致命傷を負う。冷気の力により苦痛を喰らうことも出来ないようで、ロマはその場にうずくまる。
「どうだ、オレたち兄弟のコンビネーションは。お前らに勝るとも劣らないだろ?」
「さあ、そろそろトドメを刺させてもらいますよ。覚悟はいいですね?」
もはや勝負は着いた。トドメを刺すべく、アゼルはヘイルブリンガーを構える。だが、ロマたちはまだ諦めていないようだ。
「ハッ、ほざくなよ。致命傷を負ったくらいで戦意を失うほど……俺らはヤワじゃねえんだよ! アマナギ、最後の切り札だ!」
「むぐぅ……おっけー、こうなったらトコトンやるよ。外道忍法奥義……『
粉々に砕けた骨の柱の破片がロマとアマナギの元に集まり、二人を包み込む。腐肉と骨が増殖し、いびつな形をした巨人へとその姿を変えていく。
「カイルよぉぉぉぉ、何があってもお前だけは殺す! 殺さなきゃ……あのお方に顔向け出来ん! だから……何があっても! 逃がしはしねえ!」
「……望むところだ。来い、ロマ。アゼル、お前はあの巨人の脚を狙え。体勢を崩したところを、仕留めるぞ」
「分かりました!」
最後の力を振り絞り、しぶとく足掻くロマとアマナギに立ち向かう。アゼルの後ろから援護射撃をしつつ、カイルは頭の片隅に思い描く。ロマたちと初めて会った、遠い過去の日を。
(……あの頃は、若かったなぁ。オレも、あいつらも。今みたいに憎み合うこともなく、いつもバカ騒ぎしてたっけな)
遠い昔、彼らは気の置けない親友だった。共に霊体派の死操術を学び、いつの日かこの力を大地のため使いたい……そんな思いを抱いていた。
だが、カイルの才能が総帥に認められ、目をかけられるようになってから彼らの関係は変わった。日に日に実力を伸ばしていくカイルと、ロマたちの間に溝が生まれたのだ。
『くそっ、ダメだ……。カイルみたいに上手く出来ない。俺たちとアイツには、そんなに力の差があるのかよ』
『あまり無理するなよ、ロマ。根を詰めすぎると身体に良くないぜ?』
『……ああ、そうだな。でも、お前はいいよな。俺たちが苦労して会得した魔術も、お前はトントン拍子に覚えていくんだからよ』
『へへ、わりぃな。ま、これが才能の差ってやつかな!』
『……能天気だね、あんたは』
当時のカイルは、己の力に酔い増長していた。自分の振る舞いがロマとアマナギの劣等感を刺激し、溝を深めていることなど考えもしていなかったのだ。
「戦技、ブリザードブレイド!」
「邪魔なんだよ、お子ちゃまがさぁ! 某たちの邪魔を、するんじゃないよ!」
腐肉の巨人の下半身を操るアマナギは、死に瀕していながらも攻撃を行う。カイルを抹殺し、遠い日の思い出の全てを葬るために。
「ハッ、さっきからチマチマと撃ってばかりだな。面倒なことは全部弟任せか? カイル。思えば、昔からお前はそうだったな! え?」
「そうだな。今にして思えば、オレはずっとお前たちを苛立たせてばっかりだっと思うよ。……ごめんな、ロマ。アマナギ」
ロマは巨人の上半身を操り、弾丸を叩き落とす。その最中、ずっとカイルに罵声を浴びせていた。カイルは過去の己を省み、謝罪の言葉を口にする。
「だが、お前たちに殺されてなるつもりはない。オレには、やらなければならない贖罪がある。それを果たすまでは……この命、誰にもやれねえんだ!」
「何を、ほざ……! アマナギ、もう限界か?」
「そう、みたいだね……。後一発くらい、かな。それ以上は……たぶん死ぬ」
「分かった。安心しろ、俺一人で生き延びるつもりはない。カイルを殺して、俺たちも死ぬぞ。三人揃って……あの世に行こうぜ。最終奥義……ペイン・ビッグバン!」
一足早くアマナギが限界を迎えたようで、巨人の動きが鈍る。最後の力を振り絞り、二人分の魔力を束ね合わせ大爆発を起こそうとする……が。
「そうはさせません! てやあっ!」
「しまった、脚が!」
「いいぞ、アゼル! 相手の体勢を崩した! 今度こそトドメを刺すぞ、飛べ!」
「はい!」
ヘイルブリンカーの連続攻撃により、巨人の脚が砕け体勢が崩れた。アゼルは垂直に飛び上がり、力を溜める。そこに、背後からカイルの弾丸が発射された。
魔力を帯びた合計十二発の弾丸がヘイルブリンカーに集約し、爆発的に力を高めていく。そして、アゼルとカイルによる合体奥義が放たれる。
「これで終わりです! 合体奥義……ギガント・スリンガー!」
「ぐ……おおああああ!!」
鋭い斬撃が、巨人ごとロマとアマナギを両断した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます