164話―真打ちたる強敵
「兄さん！ もうこっちに着いていたんですね、無事合流出来てよかった」
「ああ。ここまで快適なも……ん？ アゼル、そいつらは誰だ？」
アゼルたちはようやく、カイルとの合流を果たした。弟との再会を喜ぶカイルだったが、アーシアとリジールを見て警戒心をあらわにする。
「ほう、貴殿がアゼルの兄か。お初にお目にかかる。余はアーシア。ラ・グーの野望を阻止するため、アゼルに協力している大魔公だ」
「大魔公？ 闇の眷属のお偉いさんがらなんたってそんな同士討ちみたいなことを」
訝しむカイルに、アーシアはなぜ自分がアゼルに協力するのかを話す。ラ・グーの躍進を阻み、玉座から引きずり下ろすことが目的だと知り、カイルは頷く。
「なるほど、だいたい分かった。まあ、あんたは信用してもいいだろ。だが」
「ヒッ……」
「お前は別だ。オレが言えたクチじゃあないが、アゼルを酷い目に合わせた奴をこれ以上一緒には連れていけないな」
アーシアの協力はこころよく受け入れたカイルだったが、流石にリジール相手にはそうもいかないようだ。リリンたちよりも強い言葉で、拒絶反応を示す。
とはいえ、自分もアゼルを放置していた負い目があるため言葉とは裏腹に、態度に頑なさはない。アゼルが説得すれば、リジールも連れていけるだろう。が……。
「外道忍法、
「！ アゼル、あぶねぇ！」
「うわっ！？」
どこからともなく女の声が聞こえてきたと思った直後、地面から四本の骨が突き出してきた。骨同士を強力な魔力のバリアが繋ぎ、ドーム状の牢獄が展開される。
いち早く反応し、難を逃れたカイルと彼に助けられたアゼル以外は牢獄の中に囚われてしまう。アゼルが困惑していると、少し遅れて黒ドクロの水晶が叫び出す。
『警告！ 警告！
「
「どうやら、オレかアゼルたちのどっちか
牢獄の中と外は完全に遮断されているようで、中にいるシャスティたちの声が聞こえない。アゼルとカイルは背中合わせになり、敵の襲来に備える。
だが、そんな彼らにさらなる悪い知らせがもたらされることとなる。敵は、一人ではなかったのだ。
『警告！ 警告！
「！？ なんだと……アイツも来てやがるのか！」
「そうだ。久しぶりだな、カイル。相変わらずイラつくツラしてやがるな」
カイルが驚いていると、地中からさらにもう一本骨の柱が現れる。柱が展開され、その中から二人の男女が降りてきた。一人は、藤色の忍装束に身を包んだ女。
もう一人は、くたびれたダークグレーのローブを着た傷だらけの男だ。並々ならぬ憎悪をカイルに向けており、思わずアゼルは身震いしてしまう。
「やーっと追い付いたね。ロマ、奇襲作戦はとりま成功したね」
「ああ。だが、ここからが肝心要だ、アマナギ。今ここで確実に、こいつらを仕留めねばならんからな」
「困りましたね、こんな時に襲撃だなんて。早速、いやーな展開になりましたね……」
目の前の敵を見ながら、アゼルはため息をつく。チラッと後ろを見ると、アーシアたちが牢を破壊しようと四苦八苦しているのが見えた。
リリンたちが戻ってきたとしても、残念ながら牢獄の中に転送されるだろう。今回は、アゼルとカイルの二人で危機をしのがなければならない。
「全くだな、アゼル。でも、まあアレだ。オレとお前の二人なら誰が相手でも……負けねえ。そうだろ？」
「そうですね。一人では厳しくても、二人なら……勝てる。例え相手が何者だろうとも！ 出でよ、ヘイルブリンガー！」
カイルの言葉に頷き、アゼルはヘイルブリンガーを呼び出し構える。それを見たアマナギとロマは、嫌らしい笑みを浮かべながら臨戦態勢に入った。
「んー？ やる気だよ、ロマ。どっちがどっちを殺す？」
「俺はカイルを殺す。お前はいつも通りサポートをしろ。隙があれば、隣のガキを
「あいあい、お任せ。んじゃいくよ。外道忍法、『
ニヤリと笑って後、アマナギは右手を地面に叩きつける。すると、無数の顔が張り付いた腐肉の柱が四つ生えてきた。あまりの禍々しさに、アゼルは身じろぎする。
「これは、一体……？」
「チッ、いきなり出してきやがったか。アゼル、あの柱には触れるな。触れちまったら大変なことに……」
「おしゃべりはここまでだ！ お前には死んでもらうぞ、カイル！」
カイルがアゼルに忠告をした直後、ロマが先制攻撃を仕掛けてきた。波打つような形の刃をした剣、フランベルジュを二刀流にしてカイルに襲いかかる。
それを合図に、なんと地面から生えてきた柱も動き始めた。アゼルは慌てて柱から遠ざかりつつ、いまだ動く気配を見せないアマナギに斬りかかった。
「なら、ぼくは……お前を倒す！」
「へぇ、やってごらんよ。やれるものならね！ 外道忍法、『
「！？ 相手が消え……うわっ！？」
ヘイルブリンガーを叩きつけようとした次の瞬間、アマナギの姿が消える。それと同時に、柱に浮かび上がっている顔の一つが消え、アマナギのいた場所に死体となって現れた。
慌てて攻撃を中断しようとするアゼルだったが、力任せに振り抜かれた斧の勢いを止めることは出来ない。吸い込まれるように死体に斧が直撃し……。
「ギィ……アアアアアアアァァァァァ！！」
「う……わあああっ！！」
攻撃を食らった死体が絶叫し、衝撃波が放たれる。アゼルはまともに攻撃を浴びてしまい、後ろへ吹っ飛ばされてしまう。その方向には、骨の柱がある。
岩の上に現れたアマナギは、けらけら笑いながらアゼルを囃し立てる。
「ほーら、吹っ飛べ！ そのまま柱にぶつかれば、またお楽しみだよ！」
「くっ、そうはいきません！ バインドルーン・キャプチャーハンド！」
柱にぶつかる直前、アゼルはルーンマジックを用いなんとか難を逃れる。斧から伸びる手が地面に爪を立て、パチンコ弾の要領でアマナギの元へ飛んでいく。
「おあっ！？ そんなんアリかいな！？」
「お返しです！ 戦技、アックスドライブ！」
「むっ……おあっ！」
斧刃が煌めき、防御や回避する暇も与えずアマナギに必殺の一撃が叩き込まれる。胴体を切り裂き、致命傷を与えた。並みの相手なら、これで決着が着くだろう。
だが、この直後……アゼルは知ることとなる。アマナギとロマ、二人の恐るべきコンビネーションを。
「びえー、ロマー！ おもっくそ斬られたー！ はらわたまろび出るー！」
「いちいち泣くな！ さっさとこっちに来い！」
「まずい！ アゼル、二人を合流させるな！」
ギャンギャン泣きながら、アマナギはロマの元に向かう。それを見たカイルは焦りながら叫ぶも、柱が邪魔をして彼もアゼルも合流を阻止出来ない。
「た゛っ゛て゛ー゛！」
「うるせえな。まあいい、貰い受けるぜ。お前が受けた、苦痛をな！」
「あいつ、何を……！？」
次の瞬間、ロマはアマナギの傷口に手を突っ込んだ。すると、みるみる傷が塞がっていき、一分もしないうちに完全に癒えてしまった。
さらに、ロマの身体を闇色のオーラが包んでいく。ただ事ではない空気に、アゼルは嫌な予感を覚える。
「兄さん、彼らは何をしているんです？」
「あれは奴らの鉄板戦術だ。あのロマってのは、他人が受けた傷や痛みを吸い取って自分を強化する力を持ってるんだ。もう一人の女は、そのサポートにだけでやがるのさ」
「そんな！ それじゃあ……」
「ああ。あの二人は……とんでもなく、相性がいい。オリハルコンより硬い、赤い糸で結ばれてやがるのさ」
その言葉に、アゼルの頬を冷や汗が流れていく。二人の
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