147話―狭間の城の決戦!

 カルーゾ隕石を退け、オメガレジエートは時空の海を進んでいく。しばらくして、レーダーが強烈な次元の歪みを捉えた。カルーゾが座する、時空の狭間だ。


「我が君、標的の本拠地を発見しました。すでに他の方舟は到達し、攻撃を開始している模様です」


「よし、僕たちも乗り込むよ! ふーちゃん、ここに残って制御をお願い。ついでに、僕が合図したら……を出してね」


「かしこまりました。武運長久を、我が君。そして、皆さん」


「はい! 必ずカルーゾを倒してきます!」


 ファティマはオメガレジエートに残り、本拠地に乗り込んで戦うアゼルたちの後方支援を行うこととなった。モニターには、本拠地の全貌が映っている。


 球状をした闇色の結界によって守られた、平らな地面……その中央に、いびつに歪んだ鉛色の城が聳えている。結界はかなり頑強なようで、方舟の砲撃にもびくともしない。


「ふむ、なかなかに丈夫なものじゃな。まあ、わしらが直接攻撃を行えば容易く割れようて」


「……アタシはツッコまねぇぞ、ぜってぇに」


 ムキムキマッチョ状態のディトスは、筋肉を見せびらかすようにポージングしながら余裕の発言をかます。先ほどの一方的な破壊ショーを見ていたため、全身無言で肯定していた。


「さて、あの結界はわしら神影が何とかしよう。我らが先行し、結界に穴を開ける。そこから入るとえぇ」


「分かりました、ディトス様」


「うむ。とはいえ、あれだけの強度じゃ。再生力も高かろう。恐らく、穴を維持するのに手一杯になろう。そこからは、そなたたちが頼りじゃ。頑張れよ、若き希望たち」


 そう言うと、ディトスは光の鎖へと姿を変え、転移魔法でオメガレジエートの外に出る。同時に、他の方舟からも五つの光の鎖が伸び、結界に突き刺さった。


『アルトメリク、ファルティール、ムーテューラ、ディトス、フィアロ。準備はいいな? 我々ファルダの創世六神の力……今こそ解き放つのだ!』


 バリアスの言葉を合図に、鎖が強い光を放ちながら結界を切り裂いていく。十分な大きさの穴が開いた瞬間、各方舟からペガサスに乗った戦士たちが一斉に飛び出し、結界内部へ向かう。


「よし、僕たちも行くよ! さあ、遅れるなー!」


「おー!」


 アゼルたちも後に続き、ボーンバードに乗ってオメガレジエートを発つ。六本の鎖によって固定された穴の中に飛び込み、カルーゾが待つ城を目指し進んでいった。


「これが、カルーゾの城……か。フン、センスのない造形だ。子どもの粘土細工の方が、よっぽど均整が取れておるわ」


「匂いも最低ですわね。まるで……肉か何かか腐っているような、酷い匂いがあちこちから漂ってきますわ」


「そうですね……でも、入らないわけにはいきません。さあ、進みましょう」


 城の前、大正門にたどり着いたアゼルたち。近くで見ると、改めて城の異様さが目につく。城全域が悪臭に包まれており、気分を害する。


 床も壁も天井も、全てが歪んでおりまともに歩くのも一苦労な有り様であった。悪戦苦闘しながらも、一行は城に入り……すぐに、愕然とすることとなる。


「これは……! 先行していった戦士さんたちが!」


「これは……なんだ、皆死んでいる……のか? いや、だが……それにしては、非常に弱いが息も脈もある。これは、一体……」


 正面ホールは、ファルダ神族の戦士たちが倒れ、累々と積み重なっていた。しかし、何やら様子がおかしい。死んでいるわけではないが、生きているとも言い難い状態にあるのだ。


「酷いですね……ペガサスさんまで、倒れて……。でも、誰かに襲われた形跡はありませんし、何が起きたのでしょうか」


「それを知る必要はない。貴様らも、我の手で永遠の虚無へと葬られるからな!」


 アゼルが首を傾げた直後、どこからともなくカルーゾの声が響く。そして、ホールの天井が崩れ、頭上からいびつな神による奇襲が行われた。


「危ない! 出でよ、不壊の盾!」


「フン、防いだか。流石は魔神、咄嗟の対応力は侮れんな」


 奇襲に失敗したカルーゾは、忌々しそうに吐き捨てた後、アゼルたちから大きく距離を取る。その姿は、大きな変貌を遂げていた。


 全身が毛皮で覆われ、両足は頑強な蹄に変化している。腰からはサソリのような尾が生え、左右のこめかみには湾曲した巨大な角があった。


「へぇ、凄い姿になったね。もしかして、それ僕たちの真似事かな? やだなぁ、真似するならちゃんと所定の手続きしてくれなきゃあ」


「フン、減らず口を。まあよいさ、どうだ我の姿は。強くたくましくなっただろう? 今ある世界を終わらせ、新たなる世の唯一神となる者に相応しかろう」


「ぼくはそう思いませんね。醜悪で、いびつな獣にしか見えませんよ。それより……この人たちに何をしたんです、カルーゾ!」


 ヘイルブリンガーを呼び出しつつ、アゼルはカルーゾに問う。フン、と鼻を鳴らしながら、カルーゾはつまらなそうに顔を歪める。アゼルの反応が気に食わなかったのだろう。


「そんなことか。簡単なことよ、我の力で生と死の狭間へ閉じ込めてやったまで。貴様の持つ死者蘇生の力を封じるためにな」


「生と死の狭間だと? それはどういうことだ?」


「ククク、簡単な話よ。そやつらの肉体は生きているが、魂は死んでいる。肉体が生きているならば、魂は戻せぬ。生と死の矛盾パラドクス……これが、我新たに得た力よ」


 リリンの言葉に、カルーゾは邪悪な笑みを浮かべながら答える。どうやら、彼はアゼルの持つ死者蘇生の力を警戒し、封じる策を講じたようだ。


「へっ、要するに小手先のくだらねぇ細工だろ? そんなもん関係ねぇな。てめぇを叩き潰しちまえば、問題はねえんだからな!」


「やれるものならやってみるがよいわ、虫ケラどもめ! ライトニング・トライデント!」


「来る! 気を付けて!」


 シャスティが挑発すると、カルーゾは身の丈ほどもある三又の槍を作り出し、突進してくる。リオの言葉を合図に、全員散開して攻撃から逃れた。


「先制攻撃ですわ! たあっ! 戦技、裂空回転脚!」


「受けるがいい、裁きの雷を! サンダラル・アロー!」


 攻撃を避けたアンジェリカは、壁を利用して三角飛びを行いカルーゾの後ろに回り込む。リリンの攻撃に合わせ、背後から後頭部へ回し蹴りを叩き込もうとする。


「ムダよ。ダークネス・カーテン!」


「これは……きゃっ!」


「そうら、仲間の元に返してやろう!」


「まずい……くっ!」


 が、カルーゾの後頭部にギョロリと単眼が開き、アンジェリカの動きを捕捉する。闇の布を呼び出し、アンジェリカを絡め取ってリリンの方へ投げつけた。


 仲間を攻撃してしまうわけにはいかず、リリンはやむ無く雷の矢を消失させ、アンジェリカを受け止める。その隙を突き、カルーゾはトライデントを突き出す。


「バカめ、隙だらけだ!」


「そうはさせません! ガードルーン……イジスガーディアン!」


 一気に二人を葬ろうとするも、間一髪アゼルの妨害が間に合った。青色の障壁がトライデントを阻み、リリンたちを救出する。その間に、今度はリオとシャスティが仕掛ける。


「お返しだぜ、戦技……トルネイドハンマー!」


「そりゃっ! シールドブーメラン!」


「チッ、虫ケラが!」


 リオの投げた盾はサソリの尾に弾かれてしまったものの、シャスティの攻撃が脛にクリーンヒットしカルーゾの体勢を崩す。そこに、すかさずアゼルが切り込んだ。


「いけー! アゼル!」


「食らいなさい、カルーゾ! 戦技、アックスドライブ!」


「舐めるな、ダークネス・カーテン!」


「そんなもの、真っ二つに切り裂いてやる! やあぁぁ!」


「なっ……ぐああっ!!」


 闇を切り裂き、ヘイルブリンガーがカルーゾの胸元を切り裂いた。

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