148話―死闘! 審判魔勝カルーゾ!

「なんだ、それは? そんなもの、今の我には効かぬ」


「!? アックスドライブが、効いてない……!」


 渾身の一撃がクリーンヒットし、カルーゾに大ダメージが与えられる……と思われたが、現実は違った。強靭な体毛によって衝撃を吸収され、ダメージを与えられない。


「残念だったな、小僧。神を、魔を超越した我には貴様ごときの技など無意味よ。ふんっ!」


「うわあっ!」


「アゼル、掴まれ!」


 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、カルーゾはヘイルブリンガーごとアゼルを天井の方へ投げ飛ばす。ぶつかる直前、リリンが伸ばした魔法の鞭を掴み、引き戻してもらい難を逃れる。


「ありがとうございます、リリンお姉ちゃん。まさか、ぼくの攻撃が効かないなんて……」


「そう消沈するな、アゼル。どれだけ強かろうと所詮、体毛は体毛。強度などたかが知れている」


 雷の矢を飛ばしてカルーゾを遠ざけつつ、リリンはアゼルにそう声をかける。一方のカルーゾは、アゼルの攻撃を退けたことでさらに調子ついているようだ。


「ククク、そう言っていられるのも今のうちよ。唯一神……いや、もはや神という称号もいらぬな。より強く、恐怖を貴様らに刻む名を名乗らねばなるまい」


「ブツブツと……うっせぇんだよ! 戦技、ヘルムクラッシュ!」


 一人で何かを呟くカルーゾに苛立ち、シャスティが攻撃を仕掛ける。が、片手どころか尻尾で軽くいなされてしまう。アンジェリカやリオも畳み掛けるが、結果は変わらなかった。


「そうだ、決めたぞ。かつての我の神位より名を拝領し……これより審判魔将を……いや、将では格が落ちる。ここは演技を担ぎ……『審判魔勝』と名乗ることにしようか!」


「わー、だっさい名前! センスないねー、魔勝だなんてさ! ぷぷっ!」


「貴様……!」


 思わず本音が漏れたリオに、カルーゾは怒りをあらわにする。異名を早速コケにされれば、無理もないものであるが。


「許さん! まずは貴様から死ね!」


「そーはいかないよーだ! 出でよ、破槍の盾!」


 リオはアゼルたちから離れ、カルーゾの注意を引き付ける。彼の持つ固有能力……『引き寄せ』を発動したのだ。対象の精神に働きかけ、自身への敵意を増幅させる。


 そうすることで、仲間を敵の攻撃から守ったり、逆に視野が狭まっている相手に安全に仲間が攻撃を仕掛けられる状況を作り出すことが出来るのだ。


「おっきな豚さん、ここまでおいでー! あっかんべー!」


「このガキ……! 減らず口をペラペラと!」


 トライデントを振り回し、カルーゾはリオを仕留めようと躍起になって攻撃を行う。その最中、リオはアゼルたちに目配せをする。今のうちに、カルーゾの背後に回れ。


 アイコンタクトでそう伝え、前後から挟撃しようと目論んでいるのだ。その意図にバッチリ気付き、アゼルたちはこっそりカルーゾの背後へと回り込む。


「ちょこまかと……! 闇の力を食らうがよい! ダークネス……」


「アゼルくん、今だ!」


「はい! みんな、行きますよ!」


 カルーゾの攻撃を避けながらタイミングを見計らっていたリオは、相手が技を放つため動きが止まった隙を突き、アゼルたちに呼び掛ける。


 アゼルたちはすでに攻撃の準備を整えており、リオの叫びに合わせて一斉攻撃を放つ。前からはリオ、後ろからはアゼルたち。カルーゾにもはや逃げ場はないと思われた、が……。


「猪口才な! ダークネス・バーン!」


「うわあああっ!」


「アゼル、危ない!」


 避けきることは不可能と判断したカルーゾは、被弾を覚悟の上で強引に技を放った。凝縮された闇の魔力が爆発を起こし、アゼルたちを吹き飛ばす。


 咄嗟に盾で攻撃を防いだリオと、リリンたちに庇われたアゼルは無傷でやり過ごすことが出来た。しかし、身代わりとなったリリンたちは、戦闘不能になってしまう。


「みんな……そんな、どうして!」


「お前は、切り札だからな……。カルーゾを倒すためには、アゼルの力がいる。だから……」


「アタシらが盾になりゃ、無傷でいられるってんなら……いくらでも、盾になってやんよ……」


「そう、だよ。あたしたちが倒れても……アゼルくんが勝てば、また生き返らせてもらえるし……問題は、ないでしょ?」


 アゼルの言葉に、リリンやシャスティ、メレェーナはそう答える。悔しそうに顔を歪めながらも、アゼルは頷く。彼女らの献身をムダにしないためにも、止まってはいられない。


 いまだカルーゾの敵意はリオに向けられており、こちらに注意は向いていない。致命傷を食らわせるならば、今のタイミングしかないのだ。


「サモン・スケルトン。スケルトンたち、お姉ちゃんたちを安全な場所に。頼みましたよ」


 アゼルはスケルトンを呼び出し、戦いの巻き添えにならないようリリンたちを避難させる。スケルトンたちが城の外へ向かうのを見送りつつ、カルーゾを視界に捉える。


「よくもまあ、こんなくだらぬ手をしてくれたものよなぁ! 貴様の自慢の盾、我の槍で貫いてくれるわ!」


「無理だね。今まで僕の不壊の盾を壊せたのは二人しかいないんだ。お前じゃむりむりかたつむり!」


「このガ……ぐうっ!?」


「背中がお留守ですよ、カルーゾ!」


 激しい戦いを繰り広げているところにアゼルが参戦し、ヘイルブリンガーの一撃をカルーゾの背中に叩き込む。背中は胸とは違い、さほど硬くはないようだ。


 先ほどの雪辱を果たすべく、アゼルは追撃を放ってカルーゾの尻尾を切り飛ばした。痛みで呻いている間に、さらに左足へ斬撃を叩き込む。


「リリンお姉ちゃんたちの仇だ! これでも食らえ!」


「チィィィィ、虫ケラともが! こうなれば、この城ごと踏み潰してくれるわ!」


 苛立ちが頂点に達したカルーゾは、リオたちから離れホールの奥へ飛ぶ。そして、光と闇の力を解放し、己の肉体を巨大化させていく。


『チャンス! ふーちゃん、例のアレ頼むよ!』


『承知しました、我が君。すでに増援の方々と合流したので、共に向かわせます』


 リオは懐に忍ばせていた通信用の魔法石を取り出し、外で待機しているファティマと連絡を取る。そして……決戦に備え用意していた切り札を呼び出す。


「アゼルくん、一旦外に出るよ。ここは狭くて呼べないからね」


「呼ぶって……一体、何を?」


「巨悪を断つ、機巧の巨人……そして、古い強敵ともの忘れ形見さ!」


 リオが何をしようとしているのか検討がつかなかったが、アゼルは大人しく従い共に城の外へ脱出する。カルーゾが巨大化するにつれ、城のあちこちに亀裂が走り崩れていく。


「さあ、見るがよい。これこそが我の真の力よ。ククク、ここまで大きさに差があると、文字通り貴様らなど虫ケラよなァ。容易く踏み潰せるわ!」


 二人が脱出した直後、完全に城が崩壊した。カルーゾの巨大化も完了し、目測でも二十メートルはあると確信出来る大きさに変貌を遂げていた。


「本当にそうかな? 生憎、こっちも黙って踏み潰されるつもりはないんだよ! 来い! レオ・パラディオン!」


「……? こっちに、何か落ちて……!? わっ、あれは一体なんですか!?」


 リオが叫ぶと、結界に空いた穴の向こうから何かが猛スピードで接近してくる。降り立ったのは、青色の装甲と金色のマントを纏った獅子頭のキカイの巨人だった。


「ほう、噂には聞いていたが……本当に存在していたとはな、このようなくだらぬカラクリが」


「わああああ……! 凄いです、かっこいいです、おっきいです!」


「……うん、気に入ってくれたのは分かったから、ちょっと落ち着こうねアゼルくん」


 レオ・パラディオンを見ながら、カルーゾは小バカにするようにそう吐き捨てる。一方、アゼルは見たこともない鋼の巨人の登場に大興奮し、腕をブンブンしていた。


「さあ、乗り込むよアゼルくん。レオ・パラディオンの力で、カルーゾを倒そう!」


「はい! 望むところです!」


「おっと、そうはさせぬぞ。その前に、我が破壊してくれ……ぐおっ!?」


 アゼルたちが乗り込む前にレオ・パラディオンを破壊しようとするカルーゾだったが、結界の向こうから放たれた砲弾によって動きを止められる。


 少しして、結界の向こう側からが伸びてきた。それは……どこまでも続く、大きな線路であった。少し遅れて、軽快な汽笛が響いてくる。


「ぬうぅ……あれは、まさか!?」


「流石に、元神様だけあって知ってるようだね。これが僕のもう一つの切り札……ギア・ド・トリアスタ:ネオ。かつての強敵とも、魔王グランザームが使っていた巨大砲塔列車さ!」


 リオがそう叫んだ直後、レオ・パラディオンに勝るとも劣らない大きさを誇る、四両編成の砲塔列車が突入してきた。先頭車両には、第二陣を飾る魔神たちが乗り込んでいる。


『リオー! 待たせたな、ここからはアタイたちも参戦するぜ!』


『みんなで力を合わせて、カルーゾをやっつけちゃおー! けろろーん!』


 聖戦士たちの逆襲が、始まる。

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