141話―結成!暗域調査隊!

 暗域探索のための調査隊が編成され、早速出発する運びになった。メンバーは、リーダーのエリザベート、サブリーダーのレケレス、調査のプロクイナ。


 そして、メレェーナ……と、ついでにアゼル(赤ちゃん)の五人だ。このメンバーで、いざ暗域へ……。


「いやいやいやちょっと待て! なんでアゼルまで連れてくんだよ! あぶねぇだろうが!」


「そうは言ってもだな、アゼル本人が……」


「ばぶ! あぶぅ~ぶ、だぁだぁ!」


「すごーく行きたそうに暴れているのだ、これが」


 常識的に考えて、闇の眷属たちが跋扈する危険地帯たる暗域に赤ちゃんモードのアゼルを連れて行くことはあり得ない。……のだが、当のアゼル(赤ちゃん)がぐずっているのだ。


「ぶ~あ、だぅだぅだぅ!」


「アンジェリカに預けたら、この有り様でな。よほど、暗域に行きたいのだろう」


「おもいっきり鼻を噛まれましたわ……でも、これはこれで悪くありませんわ。いえ、むしろご褒美……エ゛ア゛ッ゛!」


「おめーは少し黙ってろや!」


 リリンの腕の中でじたばたしているアゼル(赤ちゃん)を見ていたシャスティは、恍惚の表情を浮かべているアンジェリカの頸に回し蹴りを叩き込む。


「でもよ、大丈夫なのか? 赤ん坊連れてってよ、安全は保証出来ねえぞ」


「あう?」


「いや、あう? じゃなくてだな……」


 カレンが心配そうにしていると、アゼル(赤ちゃん)が不思議そうに声を出す。まるで、自分を連れて行くのがさも当たり前のことのように。


「そのためにあたしが行くんだよー? アゼルくんのお守りするため」


「へ、へ……へくちっ!」


 自信満々にメレェーナが胸を張っていたその時、アゼル(赤ちゃん)がくしゃみをし……同時に、ぽふんとスケルトンが一体呼び出された。


 いつもの骨格標本のようなリアルな造形ではなく、メルヘンチックにデフォルメされていたが。


「……スケルトンだ」


「……スケルトンだね」


「スケルトンだな。……まさか、これで自分も戦う、ってことなのか?」


「ばぶ~!」


 カレンの呟きに、その通りとでも言わんばかりにアゼル(赤ちゃん)は満面の笑みを浮かべる。それを見て、リリンとシャスティ、アンジェリカは鼻血が出た。


「わー、かーわいい! ぬいぐるみみたーい! わたし、これ欲しいなー!」


「レケレス、それは後で自分で交渉しておくれ。で、スケルトンを作れるのはいいとして、ちゃんと戦えるのかい? 見た目だけでは困るよ?」


「だな。こーんな弱っちそうなスケルトン、連れてっても大して役に立た……おわっ!?」


 ダンスレイルとカレンがそう話していると、それまでぽけーっと突っ立っていたスケルトンが動き始めた。カレンの足首を掴み、めちゃくちゃに振り回し床に叩き付ける。


 どうやら、彼女の言い種にカチンときたらしい。その証拠に、アゼル(赤ちゃん)も怒っているようでぷくぅーっと頬を膨らませていた。かわいい。


「ちょ、ま、やめ、とめ、げぶっ! 分かった、アタイが悪かったって! だからコイツを止めろォーッ!」


「だ~ぶ、あぶあぶ」


 スケルトンに振り回され、ボロ雑巾のようになったカレンはたまらずギブアップした。アゼル(赤ちゃん)がもごもご声を出すと、スケルトンは攻撃を止めた。


「ぷぷぷ、随分酷い目にあったねぇ~カレン?」


「ぶっ飛ばすぞクイナテメー……。ま、とりあえずこのスケルトンがめちゃくちゃつえーのは分かった。これならまあ……連れてっても問題ないだろ。上の階層なら闇の瘴気も薄いし」


 身を以てデフォルメスケルトンのパワーを味わったカレンは、アゼル(赤ちゃん)の同行を認めた。心なしか、スケルトンも誇らしげだ。


「ごたごたも終わりましたわね? では、早速出発しますわよ。ダンスレイル、カレン、留守番は頼みましたわ」


「ああ、任せておいてよ。残ってる娘たちを、みっちり鍛えながら待ってるから」


「……今日も修行かー、たりぃな」


「何だい? シャスティちゃん?」


「いや、なんでもない……」


 一連のやり取りも終わり、それまで黙って一部始終を静観していたエリザベートは出発の号令をかける。メレェーナはおんぶ紐でアゼル(赤ちゃん)を背中に背負い、手を上げる。


「よぉーし、いくよアゼルくん! えい、えい、おー!」


「ばうだう~!」


 こうして、暗域調査隊はグランゼレイド城を出発した。



◇――――――――――――――――――◇



「はあ、はあ……。ようやく、次の階層へのゲートの近くまで来れたな。第五階層にさえ到達出来れば、ひとまずは安心だ」


 その頃、ドゥノンはカルーゾの追っ手から逃れるべく逃避行を続けていた。あちこちに身を隠し、時に刺客を退けながら進んでいたため、身体はボロボロだ。


「おじちゃん、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。このくらいの傷、しばらく休んでいればすぐに治る。さ、追っ手に追い付かれないうちにゲートを……」


「ギャーハハハハハハ!! そぉ~うはいかねぇなぁ! やっと見つけたぜ、裏切り者さんよぉ!」


 下の階層へ向かうワープゲートのある遺跡に到達し、ゲートまで残り数メートル……というところまで来て、追っ手に追い付かれてしまったようだ。


 革製の鎧を着崩した、モヒカン頭の闇の眷属と、その部下たち総勢二十名が現れた。遺跡は包囲されており、ドゥノンたちに逃げ場はない。


「チッ、後少しだというのに!」


「ひゃひゃひゃ、残念だったな。しっかし、こんなとこに逃げ込むたぁバカなことするもんだ。ここにゃあ下に続くゲートしかねえ、後は行き止まりよ。おめーはもう、袋のネズミってわけだ」


 モヒカンの眷属は、腰から下げた剣の柄を撫でながらニヤニヤ笑う。だらしのない笑みに、ドゥノンは嫌悪感たっぷりにしかめっ面をする。


「……袋のネズミ、か。果たして本当にそうかな? 私とて、ここにはゲートしかないことなど知っている。だからこそ、ここに来たのだ」


「はぁ? バカかよ、おめー。その下の階層は、大魔公プリマシウス様の支配領域があるんだぜ? てめーが何でそこに……」


「理由など知らずともよい。ここで死ぬ貴様らにはな」


「なに、を……がはっ!?」


 次の瞬間、モヒカン頭の眷属の首が胴体から離れる。ドゥノンが生成した光の剣により、目にも止まらぬ速度で切り落とされたのだ。


「……少年。絶対に私から離れるな」


「う、うん!」


「くっ、こいつ! お前たち、かかれ!」


 隊長を瞬殺された眷属たちだったが、怯むことなくドゥノンへ攻撃を仕掛ける。ここで逃げ帰っても、怒り心頭なカルーゾに惨殺されるだけだ。


 ならば、数の有利を頼みにドゥノンへ特攻を仕掛けた方が、まだマシだと考えたのだろう。が、そう簡単に討ち取れるほどかつての伴神は弱くはない。


「来い。私を討ち取ろうなどという思い上がり、その命を以て正してやる。ルミナスブレード!」


「この……ぐああっ!」


 ドゥノンは遺跡の奥へ後退し、通路の両脇にある柱や壁を破壊する。何人かの敵を崩落に巻き込んで撃破しつつ、通路を狭めることで複数同時に襲ってこられないようにした。


「クソッ、このままじゃ通れないぞ!」


「外に出ろ! 遺跡の壁をぶっ壊して後ろから……あいた! な、なんだこりゃ? 入り口が塞がれてやがる!」


「ムダだ、誰一人として外には出さぬ。決してな」


 遺跡の入り口は、ドゥノンが作り出した光の壁によって塞がれていた。これでは、誰も外に出ることは不可能だ。一人として逃さず、殲滅する。


 ドゥノンの強い意思の現れなのだ。


「くっ、なら壁を壊して……」


「させぬ! ルミナスアロー!」


「ぐああっ!」


 闇の眷属たちに向かって、ドゥノンは無数の光の矢を放つ。神族の子を守るため、手加減一切なしの全力を発揮しているのだ。

 

「私には為さねばならぬことがある。それが終わるまでは、死ぬわけにはいかぬのだ! お前たちには、ここで消えてもらう!」


 闘志を燃やし、ドゥノンは大声で叫んだ。

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